本書は、そうした人間と疫病との壮絶な闘いを描いた大著である。最後まで読者を飽きさせない筆者の筆力は並々ならぬものがある。しかも医学のみならず、政治、経済、文化、社会というあらゆる分野を視野に入れた、ひとつの壮大な文明論であり、著者のことばに従えば、「人々が病気についてどう考えるかという新しい枠組み」を提供する試みでもある。そしてその試みは、見事に成功している。今後、世界規模で人々の交流が盛んになるにつれ、疫病が伝播する危険性もますます高くなる。本書を読み進むうちに、未知の感染症に対する日本の危機管理体制に対する不安が頭をもたげてきた。本書は、レイチェル・カーソンの『沈黙の春』に匹敵、もしくは凌駕する傑作といっても過言ではなかろう。(新田弘光)