カニ,カニ…
★★★★☆
『空飛ぶ二十面相』と『天空の魔神』の二本立てとなっています。
『空飛ぶ二十面相』は,大まかにいって二部構成になっています。
第一部の冒頭は,未知の彗星の出現から始まります。
二十面相はこれにかこつけて,いつもの如く悪巧みをするのですが,今回のモチーフは「カニ怪人」。とにかく,カニづくしです!
子どもの目で見れば,気味悪さを感じさせる仕掛けなのでしょうが,おとなの目で見ればまったく必然性のない仕掛け。もっとも,この「無意味さ」は,いかにも二十面相らしい稚気に満ちているといえるかもしれません。
第二部は,いったん捕まった二十面相が逃げ出して,その後,少年探偵団に復讐するという内容になっています。
詳しくは伏せますが,やはりカニが使われています。
『天空の魔神』は,小林少年ら少年探偵団の3人が温泉旅行に行った先で事件が起こります(二十面相ではない美術窃盗団が登場します)。
結局は,小林少年の知恵でトリックが暴かれるのですが,謎解き自体の楽しさ・醍醐味も味合わせてくれる仕上がりになっています。この点では,『空飛ぶ二十面相』よりも推理小説らしいといえましょう。
少年探偵団シリーズも終盤になってきて,初期の作品に漂っていた闇の中を覗き見るようなぞくぞく感は薄れてきましたが,読む少年を引き込む力は今なお失っていません。
かなりトンデモな話だけど、書かれた時代を考えれば頷けるかも
★★★☆☆
しかし、奇想天外とはこのことを言うのか。怪人二十面相ものは子どもの頃から好きで、小学生時代、学校の図書室で全巻読破した記憶があるんだけど、こんな、妖星人やらカニ怪人やらが出てくる、奇妙奇天烈な話、あったかなぁ。このシリーズの舞台で出てくるサーカスや古びた洋館は、乱歩らしい雰囲気があっていいんだけど、ここまで行くと、コミカルな面白さは別にして、バカバカしくなってくる。
でも、それがいいのかも、子ども時代、こういう話にわくわくした自分を思い出し、懐かしがるにはいい。特に、この本が書かれた昭和45年という時代、ウルトラマンとかの特撮怪獣モノが大流行だったことを考えれば、このような設定を選択することはむしろ当然だったのかもしれない。
解説は万城目学が書いている。
もはや笑うしかないシュールな展開
★★★★☆
妖星人Rの出現によって起こる不思議な事件の数々。
その謎解きの段に至って、かつて小学生の私は、あまりのことに呆れてしまった。これはないだろう。
しかし、今の私は、「何だよ、このオチは!新作落語か!」と笑いながら許せるようになった。
ここまで来ると、一種のバカミスとして、むしろ感心してしまう。
併録の『天空の魔人』は、乱歩が創元推理文庫版『世界短編傑作集 2 』に選んでいた古典的名作・「ギルバート・マレル卿の絵」を少年探偵モノとして翻案したもの。
「天空の魔人のしわざ」を演出して少年探偵団員を怖がらせる、乱歩ならではの展開と、貨物列車の中から一両だけ貨車を抜き取る高名なトリックとが、渾然一体となっているかと言われれば、疑問である。
だが、そんな事を気にする方が野暮なのだろう。