カナダ出身のシンガーソング・ライターによる大ヒット・ライヴ・アルバムのビデオ版。本作を見れば、あのアルバムがサウンド面で成し遂げた進歩の意味が分かってくる――サラ・マクラクランと有能で適応力の高いステージ・バンドは、最高のライヴ・ユニットへと成長したのだ。マクラクランの曲は、オリジナルのスタジオ・バージョンからして見事だったが、ライヴ演奏によってさらなる熱情と陰影を吹き込まれている。普段は強さとカリスマ性が際立つマクラクランだが、今回のパフォーマンスではデリカシーとパワーのバランスが絶妙。魅力あふれる楽曲群は、バンドのロックな持ち味を反映して、エッジの効いた力強い調子に生まれ変わった。かくして「Possession」は、本来のセンシュアルな曲調を踏み越えて、正真正銘のエロティックな奔放さに到達する。一方、「Building a Mystery」は、ナルシスティックな気取り屋の肖像をアルバム・バージョン以上のハード・エッジで描き出していく。新たに書き直された歌詞はR指定ものの過激さだが、この曲にぴったりだ。
   このコンサートは、マクラクランがヘッドライナーを務めた1998年のツアー中に撮影されたもの。ここに見るマクラクランは、伝説のリリス・フェア出演時と比べて、よりシアトリカルで色っぽい（ただ、少々ケバいが）。床まで届く青いガウンに身を包み、青いマスカラをきらめかせ、素足で歩き回る…名作ミュージカル『キャバレー』の女主人公サリー・ボウルズにX世代の比較的おとなしい従妹がいるとしたら、きっとこんな格好だろう。ビデオ版『Mirrorball』は全23曲。うち9曲はCDで聴くことができないものだ。サウンドのミキシングは全体的にきわめて良好で、VHSよりDVDで楽しみたい。コンサート・ホールの空間性を感じさせる音響処理でありながら、楽器の聴こえ方は最前列の席と同じ。撮影の際にビデオでなくフィルムが選ばれただけあって、マクラクランのツアー・ステージにおける照明効果は画面上でも損なわれていない。ただし、照明が弱めの箇所は解像度が悪く、少々見づらくなっている。（Sam Sutherland, Amazon.co）