本書は日露戦争の中でも海軍、とくに日本海海戦に的を絞って専門的立場から解説された書だ。戦史専門家として発掘した事実を、大人気の小説「坂の上の雲」とも対比させながら解りやすく解説しており、キチンと読めば日露戦争に関する知識が無くても理解できる(もちろん「坂の上の雲」を読んでいればもっと楽しめるだろうが)。
本書を読んで痛感するのは、戦史研究という比較的小さな分野でも、史料を丹念に読み解く地道な作業が不可欠ということだ。歴史は小説ではない。どれだけ人間を惹き付ける魅力の持ち主でも、過ちを犯して大きな災いを呼べば(断罪されないまでも)その真実が白日の下に晒されてしまう。
一部の史料を、その歴史的な意味づけも吟味しないまま大げさに取り上げて面白おかしく「真実」を作り上げる風潮が強い昨今、こうした学者・研究者としての修練を長年積んだ真の専門家の地味な著作も、もっと読まれるべきではないだろうか。