日本海海戦を冷静に分析するために…
★★★★★
司馬遼太郎の『坂の上の雲』を読むと、視点が日本側に偏っているためか、日本側の弱点に目が行きがちである。しかし、ロシア側にとっても、日本海の制海権を得るためには、いかに大きな困難がつきまとっていたかと言うことが、本書を読むとよくわかる。日本海海戦は、弱小国家の弱小艦隊が、大国の強大な艦隊を打ち破った、などとは全く言えないのである。日本海海戦を冷静に分析するための一助となる書である。
出版社の見識が問われる一冊です
★☆☆☆☆
本書は以前、他社から『「坂の上の雲」では分からない 日本海海戦』として刊行された本の、改訂文庫版です。
改訂は比較的少なく、図の差し替えと一部の修正に止まっており、本質的な内容には変化はないと見てよいでしょう。
そして先行するこの本の評価は、お世辞にも高いものではありません。
これは、ネット言論上における揚げ足とり的なものばかりではなく、2005年11月の『軍事研究』誌上において、多田智彦氏による同書への痛烈かつ具体的な批判が展開されていることから、一定の広がりをもったものととらえて良いかと思われます。
同氏の著述に共通する極めて基本的な事実関係の誤認(自信たっぷりの一号機雷(連携機雷)に関する珍解釈に関して、根拠文書を知りたいところです)が認められ、筆者の資料収集と分析、執筆スタンスに疑問を感じます。
本書を読まれた初学者の方が「初めて知った」ことに驚き感心することがあるかもしれませんが、それは「初めて知った」ことによる驚きであり、正しいかどうかはまた別問題であるという点に注意して下さい。
例えば、英語の「Battle」の語源が日本語の「場所をとる」の意味だという珍説を聞かされた時、初めて聞く説に驚くことはあっても、その説を無批判に受け入れる人は多くないはずです。本書の主張は、軍事という、一般常識の分野で比較的マイナーなジャンルだからこそ、安易に受け入れられる可能性がある珍説なのです。
それだけに問題点の多い本を(わざわざ)文庫化してまで出版するなら、評価するべき分析視角などが改訂によって明確化される必要があるように思いますが、特にそうした方向での改訂は見られず出版社の見識が問われる一冊と言えます。このレビューではこうした理由から☆一つの評価をさせて頂いています。
へぇ
★★★★★
日本海海戦に関して、戦艦の発展史や砲術の進歩、米西戦争や日清戦争で発生した海戦との比較など多面的な分析で考察されています。
司馬遼太郎の「坂の上の雲」を意識して書かれているのか、司馬遼太郎の記載に関する批判的コメントが多く載っています。私のように司馬遼太郎の作品のイメージで日本海海戦を捉えている人には多くの発見があるでしょう。