Halfway Between the Gutter & The Stars
価格: ¥1,830
イギリス出身のテクノの魔術師、ノーマン・ロック(通称ファットボーイ・スリム)の『Halfway Between the Gutter and the Stars』はめちゃくちゃバランスが悪く、ボーイズフレンドリーな前回リリースには足元にも及ばない。それでもいいなら、今までより軽いハウス・サヴィーでゴスペルの雰囲気が折衷した68分のジェットコースターののりが味わえる。また新たに「Rockafeller Skank」を作る必要はない。中には、いい感じにゆっくりと盛り上がっていくチューンもある。「Talking 'bout My Baby」は『Play』時代のモビーとケミカル・ブラザースの『Surrender』コラボのようなサウンド。 ジミー・モリソンの稀に見るアカペラヴォーカルをサンプリングしたスピリチュアルなトラック「Sunset (Bird of Prey)」も悪くない。この曲はアルバムからの最初のシングルで、ここでようやくブレイクビートも聴くことができるが、牽引力というよりほとんど補足的な役割。でもこれはファットボーイがポップミュージックを取り入れるからといってもっと激しく汚れた音楽ができないという意味ではない。Ya Mama は超捻じ曲げられたクレージーなビートがブレイクとキーキーとシンセが耳をつき、これを近くで聴いたお偉方や子犬を撹乱するだろう。「Star 69」のように、ただ汚い言葉を使ったばかなサンプリングをするためだけに存在するような超くだらない曲もいくつかあるが、逆にそれが他の優れた曲の引き立て役になっている。ハウス音楽に鼓舞された「Retox」は純粋なパーティーチューンだし、アルバムの中心核をなすスーパーバッドディスコファンキー「Weapon of Choice」 (ブーティー・コリンズとのコラボ)は最高の出来。希薄なダンスポップと有名ゲストの起用によって成功しようという企ては今までにも数多くなされてきたが、ファットボーイ・スリムはそれを芸術性を犠牲にせずに成し遂げた。マーシー・グレイが歌う2曲を聴くだけでもこのアルバムの価値はある。新しい試みと聴きやすい音楽。クックはその周辺を、狂気の科学者のような笑みを浮かべながら進み続けるだろう。