「経済は一流、政治は三流」の構造的原因
★★★★☆
1943年に生まれ、シカゴ大学やハンブルク大学に留学した政治過程論の研究者が、戦後日本の政局の中長期的・構造的な分析のための叩き台として、1999年に刊行した新書本(第3章=民主党部分のみ中井歩の手になる。また共産党の分析は欠如)。1990年代の激動の中で、日本政府の果たすべき役割の重大さにもかかわらず、未だ政党間の明確な対立軸は見えにくく、有権者の不満は蓄積されている。著者によれば、55年体制は経済政策面での事実上の差異の小ささゆえに、主として安保防衛問題をめぐる自民党(保守)と社会党(革新)との対立とみなし得るが、その対立軸が冷戦終結と自民党一党支配の終焉とを契機として解体した。その中で、論壇や政治エリートの一部で新たな対立軸として浮上したのが、現在唯一体系的な政治理念を提示し得る新自由主義的な改革と、それに対する対抗理念(90年代の「反市場原理主義」)との対立である。しかし90年代の日本政治では、この対立軸が明確な政党対立の次元で制度化されることはなく、未だアマチュアたる「市民」とプロたる統治エリートとの対比に基づく突発的な政権批判しか登場していない。その構造的な要因として著者が挙げるのが、先進諸国に共通する現象としての社会民主主義の変質(日本では自民党も純粋な新自由主義政策を掲げる政党ではない)と政治不信の深化(「移り気な」無党派層の増大)の問題、および日本特有の企業社会(現場はかなり新自由主義に対立的)であり、結局日本では新自由主義の本格的な登場がないために、それ以前の古い対立が清算されず、したがって新たな争点形成も難しいということらしい。小泉政権にしても、郵政問題以外の明確な方針は見えにくく、他に頼れる政治家もないという消極的な理由での支持の方が強いだろうから、本書の分析は未だ妥当するだろう。経済の分析も興味深い。ただ、処方箋は見えにくい。