とっつきにくい「ユリシーズ」をわかりやすく解説。
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「ユリシーズ」は日本人にとってとっつきにくい作品だ。なぜならこの話の舞台が1904年6月16日のダブリン(当事イギリスの支配化にあっていじめられていたアイルランドの都市)を舞台としており、全18話は古代ギリシアの「オデュッセイア」に対応しており、また文体も後半になればなるほど実験的であるからだ。さらにオコネル橋をカーライル橋と呼ぶなど、旧名と現在名が混在している。駄洒落に近い言葉遊びがあるが翻訳ではわかりにくい。
本書は1996年から98年の間、5回にわたる文芸誌「すばる」への寄稿に加筆したものであり、地図と写真が多く文章も読みやすい。まさに日本人のための解説書だ。私は特に次の点が印象的だった。
①ヴァージニア・ウルフが「ユリシーズ」を「靴磨き少年の吹出物を単に引っ掻いているだけのもの」と否定的に評価していること。
②イギリスが自国の産業保護のために輸入に高い関税をかけてアイルランドのリネン産業を圧殺したこと。
③大飢饉による人口減や産業不振のためにアイルランドでは婚姻率が低かったこと。
④当事ドイツで表現主義が流行しており、「変身」を著したカフカもその立役者の一人だった。ユリシーズの中の「キルケ」の章で石鹸が話をするが、これは表現主義の手法とのことである。