各章それぞれが、例えば「軽さ」を賞揚しているように見えながら、その実、現実の逃れがたい「重さ」を見据えていたり、「正確な」「視覚性」の言語が逆説的に「無限定で」「潜在的な」現実を浮かび上がらせたりする仕組みになっているカルヴィーノ作品をそのまま連想させ(実際に自作を詳細に解説していて)実作者による文学論の最高作だと思います。
で、書かれなかった「一貫性 Consistency」って、文学作品の「拘束」について書くつもりだったんじゃないかな。「多様性」の章でペレックを例に論じた「作品の厳格な規則」の重要さが、カルヴィーノ自身の作品を成立させた根幹でもあり、瀕死の文学が生き残れるかもしれない唯一の道、無際限な現実を辛うじて把握できる唯一の方法なのじゃないか、とか、いろいろ考えるのにうってつけの本。
なぜ、人が小説の世界にひきずりこまれてしまうのか、なぜ、私たちは前へ前へとページをめくらずにいられなくなるのか。絶妙な物語の語り手がその秘密を、「軽さ」「速さ」「正確性」「視覚性」「多様性」の五つのキーワードから明かしていく。軽妙で、洒脱、舌触りのいい、文章読本。