「対照構文文法理論」を鮮明に打ち出した野心作
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今、「構文文法理論」という旗印で言語研究を行っている言語学者の中で、もっとも記述的妥当性と説明的妥当性の高い理論を打ち出している一人がクロフトだと思う。
ゴールドバーグ流の構文文法理論が構文独自の意味を強調し、イディオム的な構文分析が多いのに対し、クロフトは他動詞構文のような典型的な構文や個々の語彙意味との関係をより重視している。合成的な言語構造を破棄しないため、穏当な言語観による構文文法理論とも言える。また、概念構造や意味構造といったラネカーの考え方にも注視している点が興味深い。
この本の特色は、「構文」という言語単位を用いて、言語分析を行なうことのメリットを、用法基盤モデルに代表される考え方、トマセロらの言語習得研究の成果などを積極的に取り入れた上で詳述し、理論化をしていることである。semantic mapという手法には賛否があるだろうが、その野心的な試みには大いに刺激される。多様な言語のデータを用いた言語分析は非常に参考になる。
ゴールドバーグの構文文法理論はプロトタイプとネットワーク、という点に近年集中しすぎている感があるが、クロフトは積極的にラネカーなどの研究の知見を生かしつつ、構文文法理論をより「類型論を行なうための手法」として洗練させることを重視している。したがって、言語の普遍性という問題に積極的に挑戦できることも、クロフトの理論の特色だと思う。
いわゆる認知言語学が、生成文法的アプローチとは全く違った立場で、言語の普遍性について積極的に議論する必要性をクロフトは強く感じているに違いない。
「構文」という考え方は最近の流行であるが、「構文」研究者が信念を持っているか否かでその議論の説得力は決まってくるように思う。そんなことを強く考えさせてくれる著作でもある。