プレイガールでならしたモリー・レインが、謎の退行性の病気がもとで40代にして亡くなり、集まった多くの友人や恋人たちは自分もやがて死ぬ運命であることを自覚する。高級紙「ジャッジ」の編集長ヴァーノン・ハリデイは、有名にして放埓(ほうらつ)な作曲家クライヴ・リンリーを説得し、安楽死協定を結ぶ。万が一彼ら2人のうちどちらかがモリーのような病にかかったときには、もう1人が死なせてやる約束である。この先、読者は『Amsterdam』(邦題『アムステルダム』)の結末はどうなるか―― 要するに誰が誰を殺すかという問題―― を考えながら読み進むことになる。
やがてモリーの恋人のなかでも最も有名な男、外務大臣ジュリアン・ガーモニーのスキャンダラスな写真が新聞社の手に渡り、さまざまな憶測のなかでガーモニーには罷免の危機が迫る。しかしこの後がマキューアンらしいところで、どちらかといえば不愉快な印象を与えるキャラクターのガーモニーが勝利を収める展開も不思議ではない。
イアン・マキューアンは卓越した小説の技巧の持ち主で、この作品は賞を総なめにしてもおかしくない。しかも、登場人物は次から次へとめぐらされる策略のなかで、妙に無機的な雰囲気を漂わせ続ける。