スカダーを取り巻く人達との交流は相変わらずというかとても緻密に巧く描かれており、人物のひとりひとりが魅力的である。だが、肝心のミステリーが未消化のまま終わっている。この結末は許されないと思うのだ。
どうもブロックはミステリーではなく、ハードボイルドの形を借りた文学作品を書きたいのではないかと思ってしまう。もちろん元恋人で死を待つ身のジャンとの絡みは感動的でそれなりにカタルシスは感じるが、やはりこれだけ魅力的なキャラなので、ロスマクの円熟期に見られたような本編でのカタルシスを追求していってもらいたいものだ。
マットは、アル中であることを認めることで、人間としての尊厳を回復し、死を生の一部と認めることで成長を遂げた。と書いたからといって彼が死ぬわけではない。
死と隣り合わせに生きる人間の心の動きを見事に描き切った本書は、ハードボイルド・ミステリーだけでは済まされない。