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サマータイム・ブルース〔新版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

価格: ¥987
カテゴリ: 文庫
ブランド: 早川書房
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   女性私立探偵「V.I.ウォーショースキー」シリーズ第1作。女性探偵だからといって甘く見てはいけない。格闘あり撃ち合いありのハードボイルド小説である。探偵ヴィクの語りで進められる物語だから、ヴィクとともに本格推理に挑む楽しさもある。その上この探偵とうまが合えば申し分ないだろう。

   ヴィクとは、たとえばこんな人である。事務所で書類を整理していたヴィクは、送られてきた請求書をあっさりゴミ箱に捨ててしまう。
 「大部分が初めての請求書で、2回目のも少し混じっていた。わたしは3回目のが送られてくるまでは支払いをしない主義である。向こうだってどうしても金が欲しければ、忘れるはずはない」
   この豪快さが気に入れば読書は快調だ。

   第1作は保険会社に勤めていた著者サラ・パレツキーの経歴を生かした保険金詐欺事件である。物語の舞台となるシカゴの多層な人種の入り交じる複雑な事情、学生運動の残響など、1982年当時の世情が盛り込まれた骨太なつくりの小説である。一方で事件に絡んで展開されるヴィクの淡い恋愛の行方も見逃せない。きめ細かな人物描写で登場人物に厚みがあり、テンポある会話はヴィクの毒舌が小気味よく、作品世界にぐいぐい引き込まれる。ヴィクのひいきの野球チーム、シカゴカブスの勝敗が捜査の一進一退を告げ知らせるのもしゃれている。甘すぎず苦すぎず絶妙のさじ加減で男女を問わず楽しめる。

   シリーズは現在も進行中。なにより優しさと強さを兼ね備えた魅力的な探偵ヴィクの登場、これこそ事件だ。(木村朗子)

あたしはキース・ジャレットのサマータイムが好き ★★★★★
 夜の空気はねっとりと湿っていた。わたしはミシガン湖沿いに南へと車を走らせながら、よどんだ大気のなかにほのかな香水のごとく漂う、腐りかけたエールワイフの臭いを嗅いだ。夜遅いバーベキューの小さな火が、公園のあちこちで輝いていた。湖上では、緑や赤の航海灯が涼を求めて蒸し暑い大気から逃れた人々を示していた。陸の上では車が混みあい、街は休むことなく動きつづけ、呼吸しようとしている。シカゴは今、七月だった。(サラ・パレツキー『サマータイム・ブルース』山本やよい訳、ハヤカワ文庫)

 サラ 
《誰かが迫害を受けているときに背を向ければ、その残虐行為に加担したのと同じこと》

 いまは逢うことも叶わぬ昔の恋人サラの書物の森を彷徨い、島島を流浪していると、ひとフレーズごとにあのひとの息吹きに触れて、《彼女こそスター=マリーアだ!》 いつしか心も癒されていく。だから[……]もここ数日間は止っているのかも知れない。肉体の癒しが瀬音の湯で得られるのなら、あたしの心の癒しはサラの書物の森と島島に任せておこう。
「そうだよ、ヴィクに続け!」

 今日はナイト。夕方5時から朝5時までの0.5日分の出番だ。出掛けに郵便受けを覘くと、『わたしのボスはわたし』が届いていた。胸に抱きしめる、幸せばかなあたし。鳥居坂を下ると、「遠回りじゃない」とほざく新橋から六本木ヒルズまでの嫌味な女客を落とすなり、晴海に直行する。アキテーヌで震える指先で堅固な包装を剥しにかかる。ふと見あげると、レインボーブリッジの電飾が白から緑に変わっていた。

 『ゴーストカントリー』はサラの作品群に在って、なぜか、カルヴィーノの『蜘蛛の巣の小道』(白夜書房)第9章を想起させる。作家としての述志の気配が濃厚に漂うからだ。ヴィクは不在でも、これはサラにとって、重要な作品、いや書き終えねば前に進めない作品だったに違いない。
(『本と恋の流離譚』http://koiruritann.blogspot.com/)

 『わたしのボスはわたし』 I get to be my own boss... ヴィクからは少し離れるけれど、「鬼婦長」の話もいい。ヴィクには合気道の達人になって欲しい。そうすれば、襲いくる巨漢・悪漢を指一本触れずに投げ飛ばせるし、八十五歳になっても、矍鑠たる現役女探偵だろうし、体術・頭脳ともにますます冴え渡り、凄みを増すことだろう。誰か、サラに親しく、談じ込んでくれないものか。

 「おはよう、サラ、愛しいサラ、きみの花言葉はやっぱし〈昔の恋人〉?」
 と、目の前の西洋オダマキの花にぼくは問いかける。
 「いいえ、あたしの花言葉は〈必ず手に入れる〉よ」
 と、ぼくのサラ=西洋苧環が応える。
 「カタリ」
 と、澄んだ音がして、宿命の歯車がまた一つ駒を進める。
 「きみのくれた風船蔓の種‥…」
 「花言葉は〈あなたと飛びたい〉」
 「うん、ぼくもきみと飛びたい」
 「いま?」
 「いま」
 「二頭の黒と白の蝶のように」
 「漆黒の翅のオルフェウスの蝶と」
 「白い大きな翅に赤い斑点のアポロン蝶と」

 ……そうだ、最新刊の「ブラッディ・カンザス」も早く読まなくては……

 サラの書物の森と島島を流浪し、ひたすら西へと流れゆく果てに出会ったのは、碧色の大海原にも似た《カンザスの大草原に浮ぶ三つの小さな帆船》たちの物語、そう、『ブリーディング・カンザス』だ。机竜之介のいない『大菩薩峠』中の一巻を読むにも似て、ヴィクのいないこの長編小説を、期待に多少の不安を交えながら読みだす。この大冊を書いて訳した著者と訳者の労苦が偲ばれる。そしてその労苦の中に見出される密やかな喜びも。なぜなら、書いて訳す者たちの端くれだから、ぼくもまた。
 昨日は終日、母の引越しの手伝い、せめて今日、明日は読書に専念したいのだが、……
 仔牛の小屋でひと騒動――
《三人の背後で小屋の扉が閉まった。ロビーは子牛を両腕で包みこんで、やさしくなで、濡れた脇腹を自分のシャツの裾で拭いてやった。もうじき、飼葉桶に新しい干し草を入れる作業にとりかかるだろう。ラーラを見つけるだろう。牛の糞にまみれ、自分のおしっこに濡れた、チップの野戦服姿のラーラを。
 恥ずかしさのあまり真っ赤になりながら、ラーラはおきあがった。「ロビー? ロビー、あたしよ」》
 難渋していたのに、ここからはほぼ一気に終章近くまで読んでしまった。サラも一気呵成に書き上げたことだろう、翻訳も捗ったことだろう、ここからは。いまは読み終えるのが惜しくなった。また明日、か明後日……

(『本と恋の流離譚』http://koiruritann.blogspot.com/
『七つのレヴューの環に誘われたある恋の物語』http://nanatunore.blogspot.com/2009/10/7.html
『流離譚‐本と絵と恋と‐』http://ryuritann.blogspot.com/ )         

                            愛しいひと

                            蜘蛛の巣の小道

                   古代人の遺言―ピラミッド・ミステリー

わたしのボスはわたし

潔い女の美しさ ★★★★☆
今更ながらのウォーショースキーシリーズである。個性的な美人にして空手の達人、強い意思と鋭い知性を併せ持ち、慈愛に溢れ弱者の痛みを知る者......ってちょっと出来すぎじゃない?という感じがして今まで避けてきたところもあるのだが、なかなかどうして強い女はやはり魅力的だ。自分に降りかかってきた災難をしょいきる覚悟があるのが、気持ちいいよ。共感という点ではあまりシンパシー感じませんが、ヴィク姐様の爪の垢でも煎じて飲んで、自立したやさしい女性でありたいと思います。
セクシーで異性関係もありなのですが、「恋していない女」ってとこもハードボイルド女性版でっせ。
探偵小説の傑作 ★★★★★
 バツイチの私立探偵Vicが謎めいた依頼者から若い女性の捜索を依頼されたところから事件が始まる。
 途中で依頼者から調査を中止するように頼まれるが、正義感の強いVicは、マフィアに痛めつけられても怯まず、少しずつ事件の核心に迫る。
 事件の全容は最後まで分からず、本格的な推理小説といった感じです。
 英文は読みやすいと思いますが、中身は密度が濃いので、読み応えがあると思います。
“ヒロイン”が登場する忘れ得ない作品 ★★★★☆
V・I・ウォーショースキーが初登場の作品。シカゴ都心のループ地区に構える事務所に現れた男は、銀行の役員を名乗り、「行方がよく判らない息子のガールフレンドを内密に探して欲しい」という奇妙な依頼をする。依頼を訝りながら調査を始めるヴィクの前に浮かび上がるのは、大胆な保険詐欺だった…

猪突猛進で事件に立ち向かうヒロインのヴィクの姿は、読んでいてスッキリする!!

作を重ねるにつれ、若干パワーダウンの傾向 ★★★★☆
女性私立探偵、V・I・ウォーショースキー(通称ヴィク)の物語。シカゴを主な舞台とし、現代的な等身大の女性を描く。

ヴィクは決してスマートに事件を解決しない。体当たりで突っ込む事を恐れず、時には手痛い目に合う事もある。怒りもすれば落ち込みもする。だが情熱的だ(仕事熱心という意味ではない)。案外だらしない一面も持つ彼女は読者にとって親しみを持ちやすい。ウィットの聞いたセリフ回しも格好が良い。

語弊はあるが、強い女性、戦う女性に憧れる人に強くオススメ。シリーズを通してカバーは江口寿史氏が手がける。人気シリーズなので探すのに苦労はしない。