1985年のアルバム『Mr. Bad Guy』では、マーキュリーの芝居っ気たっぷりなヴォーカルが全開に。ムラのあるソングライティングや、ラインホールド・マックによる時代遅れのユーロ・ディスコ調プロダクションを吹き飛ばしそうな勢いだ。ゲイっぽい持ち味は、「Bohemian Rhapsody」で絶頂に達し、『Barcelona』でも発揮される。後者はスペインの女性オペラ歌手モンセラート・カバリエとコラボレートした、壮大でネオ・オペラ的なアルバム。近年のポップ・レコード中もっとも野心的な1枚として記憶されるものだ。ディスク1、2とも、デジタル・リマスターによるシャープなサウンドを楽しめる。
ディスク3はボーナス・ディスクで、別の視点からもう1度マーキュリーの才能を振り返ってみるという趣向。クイーンのデビュー直前にあたる1972年にフィル・スペクターのトリビュート・シングルとしてリリースされたレア・チューン「I Can Hear Music」に始まり、ジョルジオ・モロダーによるサウンドトラック・アルバム『Metropolis』からの曲、デイヴ・クラークのミュージカル『Time』からのナンバーなどを収録している。マーキュリーが楽しそうに手を入れまくった「The Great Pretender」のリメイク・バージョンは、彼の自伝と言えそうな内容だ。(Jerry McCulley, Amazon.com)