多くのファンが待ち望んでいた、最晩年の未発表曲5曲が、「すべて」収録されている、2枚組のベスト。相当のボリュームで、聴き応えは充分にある。しかし、それは逆に、初心者には不親切なぐらいの、「とっつきにくさ」を生み出してしまった。ディスク1が、あまりにも「重い」構成なのである。反面、気軽に聴けそうな曲はディスク2に集中している。これでは、ディスク1から順に聴こうと思った人の多くは、途中で投げ出してしまうかも知れない。また、「重量感のある作風だな」と感じて、ディスク2へ移った人は、途端に軽快な作品が増えて拍子抜けするかも知れない。このディスクを手にした人の中には、当然、初めてジャック・ブレルを聴く人もいるはずだ。何の予備知識もないまま聴き始めると、こういうことは、当然起こり得る。ディスク1と2を逆にするか、コンセプトを明示すべきであっただろう。ここが、ベスト・アルバムの一種難しいところであるのだが、もとより、「コア」なファン向けだった点は否めない。現に、欧米のファンや、日本でも古くからのファンは、もう、ありきたりなものでは満足できないのだ。ディスク1の大半は'77の作品か、中・後期のスケールの大きな作品が占めている。では、その作品の話をしようとすると、素直な感想の前に「アカデミック」な話題に終始する。「sans exigences」は、デモテープしか残ってなくて、オルガンの伴奏も本当は第3クゥプレからだった。それを、最新のデジタル技術で見事にリミックス。エディット・ピアフの「ベルリンの男」と同様の例...云々。「avec elegance」は、もう一つ異なるヴァージョンが存在...(以上は書物の記述から)。これでは、初心者はついて来れない。しかし、頭でっかちになってしまったからこそ、初心者の素直な意見・感想を聞いてみたい。