パンクな孔子本
★★★★★
この本大好き! 今までこういう孔子本は無かった(よね?)
解釈のしかたが新鮮で面白かった。
まず、文章が思い切りパンクロック・スタイル。孔子さまの生き様に合っている。
「仁」とは、つつみ隠さずこころが曝けだされた状態であり、それに対してウソ偽りの無い行いのこと。
徳を積むとか善い行いをしようなどどいう、自己目的化された道徳である場合、それは「不仁」になる。
逆に、社会的に悪事であるような行為でも、こころのありかたによっては「仁」に適う。
だが、悪事がやすやすと、これは「仁」であると偽られることが無いのは、「礼」の監視システムが働いているからだ。なんか、超自我っぽいかも。
孔子は、「仁」を中庸の徳だと言っているが、どちらかに極端に走らずにバランスを保つという意味ではなく、人間の価値観を一元化しない、ということだ。
こんな風に、「仁」的に生きるのはとても容易であり、かつ困難なのである。
ちょっと、ニーチェと通じるものがあるような気がするが、作者は道徳の背後に屈折したルサンチマンを感じさせるような、俗流ニーチェ的思考を否定している。
孔子の考えはあくまで、現実世界における実践論でありながら、垂直的・一元的なものでは無いのだ。
そして、論語とは、「孔門のブルース」なのである。
でも、とっても明るいブルースだと思う。読んでいて気分が明るくなる。
たぶん、一年後くらいにもう一度読みたくなるだろうなぁ。
孔子の道徳パンク仕様
★★★★☆
パンク・スタイルでありつつ、けっこう真正面から「倫理」(人間いかに生きるべきか、みたいな)を語るんだな、この石川忠司という奇才は。デビュー作の中原中也論からして、自己の純粋な言語表現に身命をかける「修行者」としてのストイックな中原像を提示していておもしろかったのだが、本書では、著者のさらにファンダメンタルな人倫の姿が説かれている。
この本の主役は、「中庸原理主義者」と解される孔子である。私たちが日々くらしている、この悲惨でもあり幸福でもある現実世界の、ありとあらゆる善と悪の諸相を「ありのまま」に肯定し、だが、ひとつひとつの事象を「中庸」の価値基準で裁定し、本当の「正しさ」を求めて行く。「殺人」にだって善いのと悪いのとがある。世間の凝固した「道徳」とは根本的に異なる教えだから、孔子の説いた真の道徳=「仁」は容易で困難だ。
短めの書物ながら得られるものは多いのだが、あえて不満をいえば、ちょっとわかりにくい書き方をしているな、と感じてしまう。『論語』の文章、現代語訳、著者の解説に加え、かなり唐突にカントの哲学やらドストエフスキーの小説やら、その他「思想・文学」の言葉が、やたら引かれる。その辺の雑多な思考ぶりが著者の「売り」でもあるのだろうが、けれど、孔子をそんなにリスペクトし愛しているのなら、もっと孔子に内在的なかたちで執筆するべきではなかったか、と、思わないでもない。