第二に、そうした引用や提示される資料が「恣意的」である気がします。意図的に選択された情報を提示されている
気がするのです。例えば朝日・読売・毎日・産経などの日本の主要新聞の分析がいくつか行われていますが、
ある箇所では朝日がクローズアップされているのに対し、ある箇所では朝日の分析だけなかったり、という具合です。
第三として、具体例が実は少なく、だからこそわかりづらい議論が多くなってしまっていると思います。
「湾岸戦争」「ユーゴ紛争」など、具体的な戦争に沿って章立ててはいるのですが、それぞれの戦争報道分析
自体は抽象的です。中国大使館誤爆の時は…と書いてあったのがほぼ唯一の具体だと思います。「報道」を分析するものなので
もっともっと具体的な戦争内の事件、出来事に沿って分析した内容があったほうがわかりやすいと思いました。
資料が恣意的で、しかも引用と引用の間に細切れに筆者の議論があるため、主張が分散されています。
また、筆者の主張は最初から明らかで、月間雑誌の「世界」に掲載された文章をまとめた新書であることからも
わかるように、極めて「世界」的なステレオタイプの主張で、「朝日」的な主張の傾向があります。
だから、「世界」や「朝日」が肌に合わない人は全く共感できないでしょうし、私のようにやや社会民主好きな
人間でも腑に落ちない箇所が多々あります。
とてもおもしろいテーマを扱ってくれていて、外国メディアの分析をする章などはそれなりに面白かったのですが、
一方でなんとなく「現代の戦争報道はかくあるべき」という議論が所々でなされているだけに、
あまり目新しい突っ込んだ分析がない分、情報量の少ない、新情報のない本になっています。
類書と対照すると、チョムスキーの書いた集英社新書の「メディアコントロール」のほうが、
多少過激でずんずん展開しすぎであっても突っ込んだ示唆があり得られるものが多いと思いました。
「~によると」という引用がほとんど全てのページに繰り返し出てくるが、このスタイルの研究書を読み慣れている読者はともかく、一般にはくどい印象が残るだけだろう。一般向けの新書なのだからもっといきいきと具体例を描写し、大胆に著者の見方を語って欲しかった。
章立てが時系列に沿って並んでいるため、冒頭から湾岸戦争やコソボ紛争などの歴史的な事例が最近のアフガン戦争やイラク戦争と同様の比重で書かれているのもじれったい。これは雑誌に掲載した論文がベースになっているためだ。全般に読ませようという意欲に乏しい「まじめな」本である。
ただ学生など、このテーマの研究を目指す人やレポートをまとめることを目的にしている人たちにとっては格好の入門書になるだろう。