生活の観点から日本の植民地主義を浮き彫りにする一冊
★★★★☆
本書は朝鮮・台湾における植民地統治を生活の観点から眺める。どの論文も講演を元にしているため非常に簡明でわかりやすい。また序章「日本の植民地主義を考える」は日本の植民地支配に関する優れた概論となっている。
本書の執筆者四人に共通する問題意識は二つある。一つは、近年の言説分析を中心とする植民地主義研究への批判である。「植民地主義の問題は、そのような言説分析というレベルにとどまらず、被支配者の生活に即しても考察しなければならない」(p15)と水野直樹氏は述べる。もう一つは、「現在の課題としての植民地主義」(p19)という観点である。それぞれの執筆者は日本統治時代と戦後の連続性や、現在に至るまで消えることのない植民地主義の爪痕に着目する。
本書を構成する四本の論文の中でも水野氏及び駒込氏の論文は特に優れていると思う。前者は日本の植民地主義の性質を朝鮮における創氏改名という問題から巧みに浮き彫りにしている。後者は、現在の問題に強くからめて台湾における神社参拝について記す。鄭根埴氏の論文は興味深い点が多いが、事実の羅列、やや実証性に欠ける感があった。松田吉郎氏の論文はライフヒストリーをもとにした単なる聞き書きの感を禁じえず、もう一歩踏み込んで分析して欲しかった。