有限群論という雄大な叙事詩
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対称性を見出すときに、そこに喜びと美を感じるというのは、おそらく人間が生まれ持った性なのだろう。この対称性を数学的にとらえると、自然に群という概念に導かれるが、群論と呼べるような数学が出現したのは意外に新しく19世紀になってからの話である。早熟の数学者の代表格としてしばしば引き合いに出されるフランスのGaloisが、5次以上の代数方程式は一般には四則演算や平方根を用いて表されるような根の公式を期待できないということを示すために、根の間の置換に注目し、この置換群を単純群に分解した時に、素数sizeの巡回群しか現れなければ、根の公式を持つが、それ以外の場合は根の公式は存在しないということを示している。これがいわゆるGalois理論の誕生であり、有限群論の走りとなる。物質はすべて原子に分解され、この原子の一覧表が周期表であるが、これ以上分解できないような単純群と呼ばれる群の一覧表を作ることが有限群論の大目標となり、本書はこの大目標が達成される20世紀後半までの歴史とこれをめぐる人間模様を実に興味深く叙述したものである。こういう有限群論に終止符を打つような大仕事の場合には、古代にユダヤの民をエジプトからカナンの地へ導いたMosesのような大預言者が必要で、その役を果たしたのが、Rutgers UniversityのDaniel Gorensteinであり、彼は1950年から1980年までの”有限群論における30年戦争”の陣頭指揮に当たるのである。著者Ronanは純群論の研究者ではないが、この30年戦争の時期に、その中心となったOxford大学やChicago大学で研究していて、その凄まじさを間近に見ており、この本の著者としてうってつけだと思われる