金融雑誌の編集ライター、朝倉ユキ。彼女の兄が死んだ。2か月前から行方不明だった兄は、引きこもり、衰弱死して行ったのだ。見つかったのは無惨にも腐敗した死体。部屋に残された、コンセントに繋がれた掃除機だけが死とは裏腹な印象を残していた。兄の死とコンセント、この2つの事象が、ユキを生の追求へと駆り立てる。
死んだはずの兄の姿はたびたび彼女の前に現われる。幻覚なのか現実なのか。兄は何を言わんとしているのか。その答えを見つけるべく、過去に関係のあった大学教授、国貞にカウンセリングを求めるが、心理学という学問が出す答えに疑問を抱き、オカルト的ともいえる観点にリアリティーを見いだしていく。それは、彼女の狂気を意味するのだろうか。そして、ユキがたどり着いた答えとは…。
人の死に直面した時、どのように自己の生の中に解決を求めるのか。心理学を学びその方面にも造詣の深い著者が、人々の生と死を深く見つめそれを官能的に昇華させていく。ある意味、現在の心理学に疑問を投げかけ、生と死の境界を非現実的な観点から現実へとみごとなまでに取り込んだこの作品は、「狂気」に新たな理解を吹き込み、その可能性を指し示した、未来へのメッセージとも言えよう。(江口朝美)