でも建築&建築史の入門書としては、とっつきやすくていいと思いますよ。建築マニアが読む本としてはまあまあ。
――結果。
●倉庫に住める感覚の持ち主向き。
*いわゆる“マイホーム”ありきでローコストを目指している人には、
実際的とはいえない。
●コスト削減の苦労はいろいろと書かれているが、多分に「単発的」
要素で成り立っている。
*半セルフビルドは当然としても、建築家は大学の教員であり、多くの
手を学生から借り出している。
●イノベーティブであるがゆえ、啓発的発言が少し煩い。
*「割り切り」を大義名分にかなりの論説が繰り返される。
しかし哀しいかな、できた家に果たして言葉を越える説得力があった
だろうか。
常々思うことだが、この手の本には、建築にかけた日数以上の(年単位の)
住みこなし記録がないとウソだ。本書には完成してからの若干の記述はある
ものの、早速階段を取り替えたいという話が出てくる程度で、「おもしろい
ものをつくりたい」と繰り返した割には、住み手がどう楽しんでいるかは不明。
それとも、建物が出来上がった途端に特殊であれば「おもしろ」かったの
だろうか。
住宅である以上、最低限の機能と普遍性を無視して「おもしろい」はありえ
ないし、第一、本当に楽しいかどうかは住んでみてはじめて分かることだ。
Casa BRUTUSなどの特集記事の延長線上にあると思ってもらえればいい。
他人の試みを楽しむには充分な本である。