その点からすればストーリーには意外性がある。全体は拍子抜けするほど短く、サクセスストーリーの要素も淡白である。主人公は賢くない平凡な男。「オブヴィアス(あたりまえの)・アダムス」とあだ名がつけられるほどの常識人で、クリエイターとして華麗なアイデアを出すわけでもない。
しかし、そんな「あたりまえ」さゆえに、主人公はビジネス界のヒーローになり上がるのだ。主人公はたとえば、クライアントから次のようなことを言われる。「君の言うとおりだ。どうやら広告は魔術ではなく、ほかのあらゆることと同じように、平凡な常識の問題なのだとわかり始めたよ」。
当たり前のことを言い、当たり前にやり遂げる主人公の尊さが、全体に浮かび上がってくる。これは、何らかの課題や問題に向き合うビジネスパーソンの心にさまざまな形で届くはずだ。とくに、袋小路に入ったときや問題が複雑に見えるときほど、あるいは、近道を求めたくなるときや常識を踏み外しているときほど、このメッセージがもつ意味は大きくなるだろう。
本書にはこのストーリーとは別に、アダムス流のアイデア創出と評価の指針をまとめた文章が加えられている。平凡でも、それが成功のカギになるという励ましも得られる本書は、自信を取り戻したりビジネスパーソンの良き指針になる。(棚上 勉)