上巻、下巻を通して
★★★★☆
リップマンはジャーナリストらしく、洞察に満ちたみごとな現状分析と、豊富な実例を用いた説得力ある文章によって、「民衆が自分たちの問題を自分たちで考え決定していく」などという牧歌的な民主主義が幻想にすぎないことを暴いていく。
その最終章は題名こそ「理性に訴える」であるが、訳者が解説の中で言っているような「アメリカ民主主義の最良の伝統を引き継ぎ、守り育てようとするヒューマニズムの精神とは何かが明らかにされているからである」とは私にはとうてい読み取れなかった。「非理性的な世界を扱うのに理性の方法を用いることは本来できない相談なのだ(p277)」。
このペシミズムとも言える冷徹な議論が現実の政治にどのように帰結していったのか?
考えさせられる著作です。