アフガニスタンを歩く。
★★★★★
2002年一月、米軍によるタリバン掃討作戦直後のアフガニスタンを歩いたスコットランド人青年が綴った旅行記。ムガール帝国初代バブール皇帝の足跡を辿り、ヘラートからカブールまでひたすら歩く。つまりアフガニスタン中央部を西から東までほぼ直線で歩いていく。
ものすごく淡々とドライでセンチメンタルな描写が皆無。しかし不思議なほど読み易い。大きなテーマは語らず、出会った人々とのやり取りを愚直なほどの素直さで綴っていく。しかし私は途中で著者が爪を隠す脳ある鷹だと気付いた。この人は体力自慢のおバカではない。「歩く」という行為に精神修養的な意味を見出しているようなのだが別に喋喋しない。正式に勉強した訳ではなさそうなのにペルシア語で随分堂々とやり合っている(ペルシア語が英語に近い言語である可能性はある)。かなり危険な目に遭っていながらドラマチックな描写をしない。よく生きて帰った、という旅路を描写しつつ、苦しい辛いと書かない。要するに自分語りをあまりしない。後半、国連の政策失敗における説明責任の不在を植民地経営と比較して批判する辺りで一瞬インテリの本性が出ている。アフガン人を見る目にもロマン的なところがない。悪いヤツも不快なヤツもいる。破壊された国、人々の窮乏、壊滅した社会基盤、痛んだ精神文化、踏みにじられた文化遺産、修復不能と思える部族間対立を、語るより多くを知る者の目線で静かに観察している。