知恵,信仰と理性,存在の形而上学,神,真理・認識・言語,善と美,人間論,倫理,法と政治といったテーマについて記述されているのだが,それが抜粋集といった形態をとったために,著者なりのそれぞれのテーマについての総合的な解釈がなされず,したがって,たとえばトマスの人間論についてみても,愛,習慣についての抜粋があるのみで,トマスの人間把握が全体としてどのようなものであったのかがわからない。これは他のテーマについても程度の差はあれ同様である。200ページくらい増やしてでも,主要なテーマについての全体的な記述があってほしかった。この点で,同じ著者が以前,勁草書店からだした『トマス・アクィナス』のほうがわかりやすい。
かわりにといってはなんだが,講談社学術文庫から,是非『神学大全』を英語で要約したTimothy McDermottの‘SUMMA THEOLOGIAE A CONCISE TRANSLATION’の日本語版をだしてほしい。最良のトマス入門書ではないかと思うので。