窓際に赤いりんごと赤いチョウ、巻き上げられたカーテンの向こうに赤いトンガリ屋根が見える、のどかな風景の表紙。素朴な描写なのに、誰の心にも眠っていた場面を呼び覚ます絵。開くと、扉には小さく本が描かれている。右ページに1匹の黒い虫、左ページには小さな文字で、「コオロギは くろい/トンと とんで/ピョンと はねて/チリリリ ないて…」。こんな詩のような言葉が、そっと置かれている。次のページは、コップなどの卓上静物と、開かれた本。こんどは「グラスに とって/たいせつなのは/むこうがわが/すけてみえること」。
空、風、雪、雨、花、虫、毎日使っているスプーンや靴、そんな当たり前すぎてつい見過ごしている、自然やモノと人とのかかわりを、即物的な目で丹念に捉えなおす。さらにこの絵本には、その先がある。そのモノがそのモノであるために大切なことは何かを、ずばっと言い当て、なるほどと納得させる。
1949年の初版以来、アメリカでは多くの人に読み継がれてきたロングセラーの名作が、今まで日本に紹介されなかったのが不思議なほど。おばあさんの代から受け継がれてきた、はげているがツヤの出た、なつかしい木の家具のように、時間に磨かれた1冊。心と頭の常備薬として、さりげなく本棚にしのばせておきたい、大切な古典の1冊だ。
これが初めての翻訳だという、この絵本の紹介者であり訳者の、初々しい、響きのよい日本語がすてき。胸にストンと落ちてくる。(中村えつこ)
これはもうブラウンの本ではない!!
★☆☆☆☆
原書の方を愛読していたので、翻訳本を楽しみにしていましたが、書店で手にした時に、あまりの違いに愕然としました。これは、もうブラウンの本ではありません。
表紙の題字からしてひどい。原書は赤でかっちりした書体で、ロールカーテンの中にきちんとおさまっているのに、訳本は黒字の丸ゴチで無神経な縦書きで画面を断ち割っています。
裏表紙に至っては、全くのすり替えです。原書ではセピア色一色で、表紙とは反対に、ロールカーテンの下の隙間から、二人の子どもの顔が覗いています。それが訳本では、表紙の空の部分に合わせたつもりなのか、空に雲が浮かんだだけの絵です。
中の絵も、原書ではモノトーンのページなのに、訳本では、いちいち色を付けています。
こういう改ざんは、印刷上のことではなく、意識的になされたものでしょうから、理解に苦しみます。何か変えなければならない理由があったのでしょうか。
訳もいいかげんです。訳者のひとりよがりで、原文をねじ曲げています。原文は、きりっとしていて、ものを感傷的には捉えていません。固定観念で一面的にものを捉えないで、自分の目でしっかり見て欲しいというブラウンの願いが込められているので、裏表紙も子どもの顔(目のあたり)でないと、そのメッセージがきちんと伝わらないと思うのですが、これが差し替えられているということは、訳者や編集者にはそれが伝わらなかったということでしょうか。
原書の方が好きです
★★☆☆☆
「こうでなければいけない」と言われているようで苦しい等々、原書からは感じられないような感想(レビュー)を受けてしまう日本語版。
日本語版の問題点を、 くさ のページを例に…。
The important thing
about grass is that it is green.
It grows, and is tender,
with a sweet grassy smell.
But the important thing about grass
is that it is green.
まず気になるのは、出だしの
The important thing about grass is that it is green. が、
くさは みどり
と 言い切りになってしまっていること。
これが誤解を与える第一要因だと思います。
次に問題なのが、 同じ繰り返しの終わりの一文、英語では全く同じその一文が
でも くさに とって たいせつなのは かがやく みどり で あること
と訳されていること…。
about が、「〜にとって」で訳されています。これが第二要因。
「こうでなければ いけない」という誤解が生じる原因は この二つにあります。
「くさに とって」であるならば この一文を再び英語にすると
1:The important thing for grass is that it is green.
2:The important thing to grass is that it is green. となります。
どちらも、「くさに とって たいせつなのは みどり で あること」です。
英英辞典をもとに更に捉えなおすと
1は、草は緑であることが大切、つまり、草は緑じゃないといけない…くらいの意味
2は、草が大切にしているのは緑であること、つまり、草は(草自体が)緑であることを大事にしている…くらいの意味
つまり他のレビューにあるような誤解のほとんどが、1の for でとらえていることになります。
しかも第一要因で挙げたように、
くさは みどり
と言いきってしまっているので、ますます、その誤解を強めます。
さて、では、原文は、というと for でも、to でもなく、about です。
このabout 辞書で引くと「〜のまわりに」「〜の身辺に」「〜については」等々とありますが、細かく言うと、「〜に関係がある諸々の事柄については」という意味があります。「〜」をアバウトな感覚でとらえている感じ とでも申しましょうか…。
まさに近年「大体」とか「正確でない」の意でよく使われる「アバウトだねー」の感覚がピンとくるかと思います。
なので、原文の The important thing about grass is that it is green. は、
「草に関連する、まつわる諸々の事柄の中でも、大切なのは草が緑であることだ」くらいの意味。
about grass =草に関連する諸々のこと=it is green /it grows/it is tender, with a sweet grassy smell です。
では、それでは一体 誰にとって 何にとって 大切なのか…という事になりますが、
ここで大事になるのが、これはマーガレット・ワイズ・ブラウンの words 詩 だということです。
原文の著者名は、By Margaret Wise Brown ではなく Words by Margaret Wise Brown と記されています。これが 詩 だということです。
つまり 実際に書いてなくても、
I wonder
の想いが全ての文にこもります。
I wonder,the important thing about grass is that it is green.
私は 草が緑色をしていることに 一番心が動くの…とでもいう感じ。
くさに とって たいせつなのは
ではなく、
マーガレット・ワイズ・ブラウンに とって たいせつなのは
です。
本当は全てのページで 同じフレーズを繰り返して
「わたしには 世界がこんな風に みえるのよ…」
そんなふうに、マーガレット・ワイズ・ブラウンが彼女のセンス・オブ・ワンダーで捉えた様々な世界を 美しく、簡潔に うたっているのですが、日本語版では このことが 伝わりにくい。
彼女の想いそのままに、同じ言葉を、原書のように 簡潔で 美しく、リズムのある言葉、日本語で うたい直すことができるのかどうか…。
そして、翻訳の問題とは別に 私が気になるのが裏表紙のすり替えです。
一番最後の詩
you are you
これはもう、
あなたの性質、性格、諸々(about you)ではなく
あなた そのものが 美しい
あなた そのものを 愛している
とうたっているようなページなのですが、
そのページを読み終えて そっと本を閉じた時に
「あなた」=「こどもたち」の 瞳が映るように、ワイスガードは描いています。
まるで、「あなたには せかいは どのように美しく うつるのかしら…」
そう、ささやかれているかのようです。
どこかに そうと書いてあったわけではありませんが、私はそう感じました。
私を、私が愛する世界ごと 抱きしめてもらったように 愛されているように 感じたのです。
一体全体、何故 裏表紙を変えてしまったのか…。
ワイスガードは必要のない絵を適当に描いて載せるような大人ではないはずです。
一体、どれ程の想い、情熱、愛、意味を込めて変更したのでしょう。
ね? フレーベルさん?
(長文失礼しました。原書については星5つです!)
難しく考えた先
★★★★★
最初、さらっと読んでみて、いいなぁと思ったんですが、私も難しく考えるタチなので、読めば読むほどうーん…てなっていました。
だけど、これは作者から見たそれぞれにとっての大切だと思うことが書いてあるわけで。
だから、ただ読むだけじゃなくて、自分でも考えてみるのがいいのかもと思いました。
りんごの部分なら、ここには丸いのが大切だってあるけど、自分はどう考えるだろう?
赤いのが大切、虫食いが大切、実がなって落ちてまた芽が出ることがたいせつ。
この本をただ読むんじゃなくて、私は?あなたは?って投げかけて、そこから色々な広がりができたらいいんじゃないかなと思いました。
じゃありんご農家のひとだったら?虫は?鳥は?りんごの木は?りんご自身から見たたいせつなことは?などなど…
そう考えると、最後の部分がよりシンプルで深いなぁと。
違うんじゃない?って苦しくなったり、私ならって考えたり。そんなことも含めてそれがあなたなんだって、教えてくれるような気がします。
自分が自分らしくいること
★★★★★
NHKラジオで中嶋朋子が朗読しているのを聴いてこの本に出会いました。
彼女の朗読は本当に素敵ですね。癒されます。
黒いことが一番大切?向こう側が透けて見えることが一番大切?
きれいな声で鳴くことが一番大切なんじゃなくて?割れにくくて飲みやすいことが一番大切なんじゃなくて?
でも、この断定がとってもすがすがしくて気持ちがいい。
まるで金子みすゞの詩のように、他人とちょっと違う視点から物事を見ている「わたし」の価値観の表現。自分を素直に正直に表現している感じ。みんなちがって、みんないい。
そして、「あなた」にとって一番大切なことは「あなたがあなたであること」。あなたはあなたの価値観を持ってね。自分が自分らしくいることが一番大切なんだよ。自分に自信を持っていいんだよ、というメッセージだと受け止めました。
「でも、」という断定が、ひとりよがりの押し付けに感じてしまうっていうのは、逆に、他人の価値観を尊重することができない、個性を認めることができないということなのではないでしょうか?
そういう意味では確かに、読む人を選ぶかもしれませんね。少なくとも私は、この本を他の人にプレゼントしたいと思うような人とお友達になりたいと思います。
難しい絵本
★★☆☆☆
友達からプレゼントされました。
絵本好きの私ですが、この絵本は恥ずかしながら理解できませんでした。
「○○にとって大切なのは…」の内容が一貫していないような…。
うんうんと共感できたりできなかったり。
たいせつなこと、価値観って人それぞれ違うところを断定した言い回しで書いているから
私にはしっくりこなかったのかもしれません。
だから人によって評価が分かれる絵本なのではないかなと思います。
難しいえほんですね。
幼児向けではないと思いますが、いつか大…
★★★★★
幼児向けではないと思いますが、いつか大人になった時に読んでもらいたい一冊です。子育て中の親の方にも最適。