原著は名著だろうが、、、
★★★☆☆
他のレヴュアーも言うように、原著は言語(に関する)研究の非常に広い分野に亘ってこの上なく分り易く解説した名著であると思う。しかし、やはり英語ネイティブ・スピーカー向けに書かれたという印象は随所に感じられ、「日本語ならもっと良い例があるだろうに」と思う事もしばしばであった。
「訳者まえがき」で「原著では「復習問題」に対する解答例が巻末に付されているが、これは自明に近いので割愛し」とあるが、やはり念のため解答例は有った方が便利だと思う。
名“英”言語学入門
★★★★☆
普段まったく考えたことの無い、言葉が通じるという奇跡。これを痛感させられる一冊です。私が漠然と抱いていた「言語」という存在への認識はとても限定的で、実に退屈なものでしかないことを実感させられました。「言語」というものは決して形態論や統語論、語用論や音韻論などに止まるものではありません。生物学的に人間以外の動物は果たして言葉を使うのかどうかの課題は未だ謎ですし、心理学的には、日常会話では言葉だけ取り出しただけでは意味不明であっても何故か通じてしまう不思議さ、歴史学的、文化人類学的には、言葉はどのように変化してきたのか、医学的には、言葉の習得とは体のどのような働きなのか、など「言語」という出発点から広がる世界は実に多様なのです。他にも社会学的、教育学的、考古学的と無限にその関心は広がり得る。ましてや音を使わない言葉としての手話まで取り上げるに至っては、「言語」の世界のまったく別な位相への拡大の可能性すら含んでいるように思います。そんな課題に対して専門領域に逃げ込むことを戒めるように、積極的な言及を行っているのが専門書にはやりにくい、入門書だからこそできる、いや入門書だからこそやらねばならない、本書の最大の美点と言えるでしょう。
しかし、本書を読んでいて、どうしても違和感を覚えざるを得なかったところがあります。それは、それぞれの課題での例示がすべて英語でなされているということ。本書が元々英語で書かれているため当然のことなのですが、そこは訳者の仕事としてしっかりと補っておいてもらいたかったものです。すばらしく適切で機知に富んだ解説でも、例として英語しか挙げられていないと、どうもしっくり来ないというのが正直なところなのです。本書の魅力を十分伝えるためにも、多少厚くなっても訳注で以って日本語による例文がもっと豊富に掲載されておれば、入門書として理想的なものになったであろうと思います。
この本について
★★★★★
この本は言語学の領域を20項目に分け、それぞれの領域について最も重要な点を述べています。内容は非常に簡単でスラスラと読むことができます。かなり初歩的な入門書といってよいと思います。この本は通常の言語学の入門書と同様に音声学、音韻論、形態論、句構造、統語論、意味論、語用論、談話、計算言語学、神経言語学、言語習得論、歴史言語学、社会言語学等を簡単にではありますが概説しています。ただ、本書で興味深いのは、これらの領域に加えて、言語起源論、書記素論、手話といった領域も扱っているという点です。特に書記素論と手話についての論考は興味深いと思います。書記素論は文字の発達を知る上で非常によい要約の形式がとられていますし、手話については、手話は自然言語なのかどちらかということを考えさせ、また反対に言語とは何であるのかということを再考させられます。言語というものを多面的に捉えるという点で、本書は非常によいと思います。