まったくノウハウも顧客層も異なる企業を毎回、時価総額十億ドル単位の企業にしていくジム・クラークの後をついていきたくなる人がいても不思議ではない。実際、3つ目のヘルシオンでは、そう信じてついてきた技術者たちが奮闘してシステムは完成し、信じた者たちは報われたのだ。
どこからともなく生み出される「ニュー・ニュー・シング(先の先を行くアイデア)」によって、彼の周りはパラダイムシフトを起こしていき、彼はどんどん資産家になっていく。それを生み出す彼の頭の中には、特殊なレーダーでも入っているのかと思えば、実はネットスケープが創業間もなく上場した背景には、どうしてもヨット建造の資金が欲しかったから、という拍子抜けするような事実があったりする。次はもっと大きなヨット欲しさに、また新しいことを考えついたりするかもしれない。
とっぴなことを思いついては皆を説き伏せ新しいことを始めていくのは彼だけではないはずだが、なぜ彼は毎回成功するのか。好奇心、集中力、勘のよさ、金に対する執着心―― いろいろと理由は考えられるが、こうした要素をもつ人はほかもいるだろう。冒険小説の主人公にもれなくついてくる、何かが起きると予感させるもの、周りを巻き込んでいくパワー、それがひとつのカギなのかもしれない。
残念なのは、これがどう見ても、シリコンバレーにふさわしい話であることだ。日本のベンチャーにはこういうミラクルショットはないものか、日本にはこういう人はいないものか、登場を期待するのみである。(加藤千秋)