流血と夕日
★★★★★
この作品を染めるのは果てしない殺戮による血の色と赤々と燃える夕日である。テネシーの生家を出て殺戮
隊に加わる少年は14歳。名前は読者には知らされない。ただthe kid とあるのみだ。延々と続く大量虐殺と遺体損壊。人間の愚行をものともしない、圧倒的な大自然の美しさ。「判事」とされる奇怪な男はまるで
狂気の少年を連れたエイハブ船長のようでもあり、また、道化を伴ったリア王のようだ。着衣のときもあれば、裸体でいることもあるこの不可解な人物はこの小説のなかで唯一説明者としての役割を演じている。ほかの登場人物はいわば,判事の「世界解読」の聴き手である。絶対悪の具象である判事と少年の関係が、この難解な小説を読み解く鍵となっている。小説の終盤、隊の男たちはユマ族の襲撃により虐殺されて死に絶えるが、少年のみ生き残って、「判事」と対決する。ラストでは身の震えがとまらなくなった。
アメリカ創生の神話として読める小説であるし、アメリカ史の真実を暴露するものでもある。だが、アメリカのみにとどまらず、人類創生以来やむことのない、人による人への残虐行為をきわめて明白に読者につきつけ、人間存在の謎を提示するという点で、アメリカ文学史上最高の散文作品だといえる。