貧しいながらもよい時代
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ヘミングウェイがパリで過ごした若き日々を綴ったエッセイです。まだ作家として芽の出ない、貧しかった時期ではありますが、カフェでの執筆の様子や、数々の芸術家との交流などが楽しく書かれており、貧しいながらも夢にあふれたよい時期だったことが伺えます。奥さんが原稿を紛失してしまったという悲しいエピソードも、こういう時期だからこそ重みを持っているような気がします。
数々の話の中でも、なんといっても印象的なのがスコット・フィッツジェラルドとのエピソードです。ほとんど思いつきでいきなり二人で旅行に行ったり、後半では妻ゼルダの病気に悩むフィッツジェラルドにヘミングウェイが助言を与えたりしていますが、晩年この二人の関係が悪化し、交友関係が途絶えてしまったことを考えると、この時期が二人の関係で一番貴重なときであり、大切な思い出となっていたのかもしれません。
いい時代だったのですね。
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20代だった頃のパリでの生活を後年作品にしたもの。
おいしい食事の話、読んだ本のこと、お酒、競馬
最初の妻のこと・・・など、パリで関わったことのすべてを
描き出しています。
その表現は絶妙で、自分もパリの町並みを楽しんでいる
かのような気分になります。
今までは、戦時下ものの作品しか読んだことがなかったので
印象が変わってとてもいい作品です。
奥さんも後に別の人に代わったりしますが、当時の奥さんの
ことが一番印象的だったので、この作品を書いたのかな?
という気がします。
気さくなおじさん
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パリ滞在期間中のエピソードがつづられる。
老人と海のしつこいおじさんかなと言うイメージだったが、このエッセイを読んでイメージが変わりました。
気さくなおじさん。
カフェやらバーやらで人生を謳歌するおじさん。
舞台はかつてのパリ。
いいですな。
あやしい香りのするパリ時代
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偉大な作家の揺籃期であり、まずしくも豊かな時間を過ごしたパリ時代を回顧した短編集。
さまざまな才能をもった人々がパリに惹きつけられていった時代のパリでの生活の一面がよくわかり、今にない羨ましさを感じる。その様な短編をゆったりとした気分で読む時間は自分自身も幸せな気分になる。パリのカフェ文化には憧れる。ぶらっと入りそこでこの様な本を読むなんて贅沢な時間を過ごしたくなった。
短編の中ではフィッツジェラルドに関する部分が秀逸です。
パリが最も輝いていた時代なのかも
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ヘミングウェイが最初の奥さんハドリーと過ごしたパリでの日々を、数十年後に回想して書かれた作品。邦訳は「移動祝祭日」。原題をそのまま訳しているわけだけど、日本語にすると余計幸福感があって良い気がする。
当時のパリには英語圏の文化人がこぞって訪れており、長期滞在していた。この本にはエズラ・パウンドとか、シルヴィア・ビーチ、ゲルトルード・スタイン、ジェームス・ジョイス、そしてスコット・フィッツジェラルドやその妻のゼルダなど今や教科書に登場するような偉人(?)たちが綺羅星のように次々と登場する。
描かれているのは一言で言えば、貧しかったが幸せだった日々、である。当時のパリに暮らすことの魅力が随所に満ち溢れている。カフェで過ごす時間、湯水のように消化されるワインとビール、散歩、窓から見えるスレートの屋根、そして寒さやお金の心配、時には食事を抜かなければならないひもじさなど、である。特になんのドラマもストーリーもなくその日々がつづられていくのだが、終盤に登場するスコット・フィッツジェラルドはやはり、というべきかかなり強烈な個性を放つ。
フィッツジェラルドとふたりでリヨンに出かける話は、突然とぼけたロードムービーのような様相を呈して読者を楽しませる。今の私にとってはどのエピソードもありえないようなのんきな話の数々。若くて時間があるって本当にいいなあ、と思う。パリでの浮き草のような生活が原因で、その後ハドリーとは離婚することになるそうだが。
フィッツジェラルドとのエピソードは「A Matter of Mesurement」と題された章でもさらに展開される。これは訳すとすれば「サイズの問題」。なんのサイズの話なのかはご想像にお任せします。