実父が出奔し極貧に育つが、カストロ率いる革命政府の奨学金で学問を学ぶ。
しかしその救いの政府は、アレナスの同性愛嗜好を理由に迫害に転ずる。
マチズムに囚われた政府当局に何度も牢獄にぶちこまれながらも、
あらゆる「途方もない性的冒険」を繰り返しつつ逃げ延びるアレナス。
そうした逃亡生活でも「夜になる前に」公園の茂みで書き綴らねばならない。
いいようのない悲哀。だがそこには豊かで強靭なユーモアがある。
あまりにも純粋な性=生への渇望。だから生き続けられる。
マリエル港事件で難民のうねりとともに米国に逃れはした。
しかし「自由の国」にアレナスの求める自由は果たして存在したのか。
最も憎んだ父=フィデルが統べる祖国。
離れて味わうキューバ的性=生の喪失。
そしてエイズの発症と絶望と自死。
濃厚なる性的生を生きるのに不可欠な肉体の衰滅。
それが、このピカレスク的自伝の主人公にとっての悲哀だったのか。
とても辛い人生を書きながら、アレナスの言葉は読む者に弾けるような感動を与えます。キューバという国がアレナスの感性を育て、苦しめた。読む者に自由というものを考えさせる最高の自伝です。この感動は読まないとわからない。アレナスを知ること、とても貴重な体験になるに違いありません。