「暴力」とは何であるのか?
★★★★☆
著者は、「日本国語大辞典」を引き合いに出し、「暴力」とは、「@乱暴な力。無法な力。不当な腕力。A不法または不当な仕方で物理的な強制力を行使すること。また、その力」と定義している。
第一の語義での暴力では、力の方向がはっきりしておらず、そこでは統御不可能な力として暴力が捉えられている。
一方、第二の語義では、力の行使される客体が暗示されており、力の方向が限定されている。
「暴力」といっても、我々は以上の二つの意味でこの言葉を用いているのだ。一方の意味での「暴力」は、「主体の意のままにならない力」でありながら、もう片方は「主体の意のままに支配する力」である。以上のような一見すると、二律背反する暴力の概念を根底で支えているものは何なのか。
筆者は、この問題に、第一義の「暴力」をヴァイオレンスとして捉え、第二義の「暴力」と第一義の「暴力」を包括するものとしてドイツ語の「ゲヴァルト」として捉えることによって、取り組もうとしている。またそれと同時に、現代が抱える「暴力」に関連する問題にも考察を加えている。
「暴力」という概念を考えてみる上で、示唆に富んだ考察を提供してくれる。