宗教紛争の先にあるもの
★★★★☆
おもにキリスト教、イスラム教、ユダヤ教について、信仰(宗教的信念)と紛争等の社会問題との関わりを斬新な切り口で分析。多くの宗教(特にイスラム教)が排他的で本質的に危険であり、妄信的信仰が人々を残虐な行為に導く力と大量殺人兵器の存在により文明は存亡の危機に瀕している、と指摘。信仰について非合理性が黙認され、宗教について合理的な批判、議論を行うことさえタブーとされる現状打破の必要性を訴える。更に既存の宗教を超えた、理性、精神、倫理の探求による世界観確立の可能性を仮説として提示、その必要性を主張する。具体策はないものの、自由な議論を基礎とした全世界規模での文明社会構築の理想を提示、脳や精神に関する科学の進歩がそれを後押しすることを示唆し、人の幸せ、苦悩を基点とした普遍的倫理観の確立、東洋の無我の概念の普及による排他的価値観からの独立の可能性を議論。著者が様々な領域の考え方をうまく纏めた枠組みは斬新で明快。各論(捕虜にたいする拷問の正当化、Gandhiら平和主義者への倫理批判など)については賛否両論あるかと思われる。また残念なのは文章は難解で構成も纏まりがなく完成度が低いこと。ベストセラーになったので結果オーライなのであろうが編集者は何をしていたのか。。。中東での宗教紛争の理解の足しになればと思い読んだ本だが、米国人の28%しか進化論を信じておらず、72%もが天使の存在を信じている現状、宗教による社会断絶の深刻さに危機感を抱かずにはいられない。米国の一部知識人の先進的視点として参考になった一冊である。2004年初版のベストセラーであるが、まだ(2006年8月)日本語に翻訳されていないのは内容の過激さゆえか。。。