組織コンサルタントとして異文化経営に携わる著者は、このような視点からグローバル経営の新しい枠組み「トランスカルチュラル・マネジメント」を提唱している。それは、アメリカ的手法へのアンチテーゼや、日米の経営を足して2で割ったようなたぐいのものではない。お互いに相手の文化を認めながらその「超克」を目指すという、哲学的な要素を感じさせる新しいモデルである。
その構成は、従来のマインドセットやコミュニケーション・スキル、マネジメント・プロセスなどの理論に、文化的な視座を加えて再構築した「5つのコンピタンシー」が柱になっていて、そこに「7つの思考の実践課題」が加わっている。さらに、グローバルマネジャーは文化的なコンテクスト(周囲の状況や関係、暗黙知)とコンテント(言葉そのもの、形式知)の2つのコミュニケーション力を高める必要があると説き、そこから相乗効果を生みだす新しいマネジメントを提案している。
これまで「異文化」の問題は、日本の外資系企業やアメリカの日系企業などの現場の個人にゆだねられがちだったが、それをマネジメントの課題に押し広げ、解決の枠組みを示した点は非常に意義深い。外資系企業や海外の日系企業のマネジャーが日々、頭を痛めている事柄への解決策が記されていて、学ぶところの多い1冊である。
本書は、1997年にアメリカで『Transcultural Management: A New Approach for Global Organizations』というタイトルで刊行されたが、日本語版である『多文化時代のグローバル戦略』では、その1割が日本人向けに書き換えられている。日系企業で働くアメリカ人の視点は興味深く、本書自体、そうした多文化の視点が混在するトランス・カルチュラルなものになっている。「人と組織のグローバル化」が遅れている日本企業にとって、格好のモデルになるだろう。(棚上 勉)