海野つなみの作品は昔から読み続けているが、なぜ「西園寺さんと山田くん」を境に画力がどんどん落ちていっているのか、これは悲しいというより、不思議で堪らない。作者に何かが起こったのだろうか…?いつもそこが気になって仕方ない。新作を目にする度、「西園寺さん~」の時にあった画力はどこへいってしまったのだろう、「ロマンスのたまご」の時にもあったあの線の柔かさ、台詞やファッションのセンスは何処へ…?という思いが押し寄せる。
それは置いておいて、この作品に関しては、まず表紙が今までに無い感じで目を惹かれた。そして、同じ学校内のキャラクター達がそれぞれどこかで繋がっていて、その1人ひとりにスポットをあてる形のオムニバス形式になっている。物語のこういう仕掛けは面白い。
1巻の中で突出しているのは1話目の「イノセント・インセスト」だろう。実の姉と弟の淡い恋の物語。ドロドロは描いていない。むしろ爽やかに仕上げているが、そこにある不安定な危うさがこの物語を支えている。読み終えた後、ずっと何かが引っ掛かるから。それは、キャラクター達はあまり悩んでいない分、その『実は重くて危ういテーマ』を読者にポンと手渡されるからだろう。誰がまともで誰がまともじゃない、なんて言い切れない。この物語に潜んでいるそんなグチャグチャを感じ取ってしまったら、『爽やか路線』という感想は持てなそうだ。もしかしたらそれこそが作者の仕掛けで狙いなのかもしれない。
不思議な感じが好きな人には勧められる作品だろう。