舞台はサンフランシスコ、白人の母と中国系1世の父の間に生まれた主人公オリヴィアに突然、中国から姉がやってくる。死に際に父が、移民前に中国に残してきた娘を呼び寄せて育ててほしいと妻に遺言したからだ。再婚した母からもっと愛されたいと苛立つオリヴィアには、つきまとうようにして世話を焼こうとする姉クワンがうっとうしくてたまらない。ところがこの姉は、死者たちと話ができる陰の目を持つ人だった。
夜ごと、幽霊の話を聞かされたオリヴィアは秘密をもつことに耐えられなくなり、そのことを親に告げる。そのためクワンは一時期精神病院に入れられてしまう。それを負い目に感じてオリヴィアは悩み続ける。
成人したオリヴィアが、死別した恋人への執着をいつまでも捨てない夫サイモンと離婚寸前の危機に立たされたとき、ひょんなことからクワン、オリヴィア、サイモンの3人は中国旅行へ出発することになった。桂林を通ってクワンの育った村チャンミェンへ到着するあたりから、ストーリーテラー、エィミ・タンの筆はがぜん冴えてくる。
随所にちりばめられた陰と陽、前世、生まれ変わり、因果といった、東洋人にはなじみ深い考え方も、米国人が英語で書いた物語として読むとまた不思議な新鮮さを感じさせるからおもしろい。これは複数の文化的ルーツをもつ作家が、米国というフィルターを通して中国を読み解こうとする物語といえるかもしれない。
不安と自信のなさに悩み続けた主人公が最後に「目には見えない感覚を信じることが愛を信じることだ」いうクワンのメッセージに気づくあたりはやや劇画的だが、「無数の秘められた感覚」という原タイトルは、西欧的なコミュニケーションからこぼれ落ちる「交感」の重要性を伝えている。米国的な市民生活と東洋文化のルーツとの葛藤から生じる苛立ちや不安は、物語を取り戻すことによってしか癒されないということかもしれない。(森 望)
現世と前世で同時進行していく本筋のストーリーも、陰の世界(霊の世界)の話も、突拍子もないようでいて全く違和感なく引きこまれる。
中国系アメリカ人のオリビアはなんだかとても小さい人間で、まるで自分を見てるよう。そこに現れる100%中国人の異母姉クワン。彼女の破天荒な言動に言いようのない魅力と奥深さが詰まっていて、さりげない言葉やリアクションが、新鮮で時に身につまされたりもする。中国4000年恐ろしや。
作者のメッセージは、「肩のチカラ抜いて笑って生きよ。」てことなのかなと思い、大袈裟なようだけど、人生のバイブルにして生きていこうと本気で思っています。
それと、中華料理がむしょうに食べたくなった。
おすすめのとっておきの一冊。でも文庫本は絶版のようで日本語でも読みたかった私は、しょっちゅう古本屋を物色中です。