浅薄な、余りに浅薄な
★☆☆☆☆
著者の年齢からすれば成瀬巳喜男の作品を同時代で見ることがなかったのはやむを得ないかも知れない。
現在販売されているDVDだけを見て、一冊の本を書くことも又それほど大それた事ではない。
しかしこの本の内容たるや、成瀬作品にも、昭和30年代という時代にも、その当時の雰囲気にもなんら興味も尊敬の念もないまま、ただ映画の中のやりとりをなぞって一見クールな分析をして見せたに過ぎない。
成瀬の最高傑作とされる「浮雲」に至っては、「戦後を生きる事が出来なかったひとりの女性に最後までつきあった男性の、冷静さと健全さの物語」と結論づけるなどどういう文脈で出てくる話なのか、林芙美子の原作すら読んでいないのではないかと思わせる浅薄さである。
著者お得意のサーフィンのごとく全てがつるつるとテーマの上を上滑りしている本と言うことである。
ぜんぜんよくない
★☆☆☆☆
まさかこの本に星5のレビューがつくとは思ってもみなかった。成瀬の映画を少しでも見ている人であれば、ここで書かれていることの内容の浅薄は一目瞭然だと思う。冒頭でDVDやビデオで手に入るもを選んだ(つまりこの著者は映画館に行って見ていない)と書いていて、90本近くある(フィルムが残っているものだけでも40本以上ある)うち16本で「一冊の本のための材料としては充分」だといっている。呆れた。「本のための材料」としか映画を見ていないことに対してである。成瀬の映画がかわいそうになってきた。だいたい、この本を書くために映画を初めて見たということ自体おかしい話である。
思いがけない傑作かも
★★★★★
この本に取り上げられている16本の映画のどれ一つ見たことがない。
そして私は日本の映画は元々好きじゃなく、絶賛されてる古い映画を見てもほとんどはギブアップ。
だいたい話が古すぎてついていけず、間延びしたようなアップとかが、無理。
せいぜいキレイな女優さんや、昔のモダンな着物や服に興味あるくらい。
でもこの本面白かったです!
「貧乏もの」っていうジャンルがあったらしいのにも驚いたけど、
こんな地味な、激しい出来事も盛り上がりもない映画が娯楽作品として
次々と公開されていたこと自体がとっても不思議で面白い。
著者らしい正確で淡々とした、とても明晰な描写で表現される
昔の日本人のしぐさや表情や動作。
しかもそんな大昔じゃないから、
そう言われれば子供の頃、大人たちはそんな風に話してた、
女の人はそういうしぐさをしてたなって
思い当たって、なんだか新鮮。
そして明晰でクールな文章のところどころに、
著者の独特な視点がはっきりしててその知的さと独自さがやっぱりとってもカッコいい。
たとえば、私は「浮雲」はリアルな恋愛小説の傑作だと思っているけど
戦後を生きることの出来なかったひとりの女性に
最後までつきあった男性の、冷静さと健全さの物語
って看破されると、なるほどな〜って妙に&深く感心。しかも
・・・・・というような方向へ彼を向かわせることに、
ゆき子がじつは大きく寄与していたとするなら、
彼にとってはかけがえのない人として、
ゆき子は充分に機能したと言っていい。
ってオチには正直、泣けた。やさしいんだもん。よかったね、ゆき子。
もう一箇所「杏っ子」評の中の
(普通の人間は)世間のどこかに身を置いてそこに心を預け、
食うだけは稼ぐ日々を人生にしていくほかに道はない。
ってフレーズも、身もフタもなくそれでいて暖かく
私は生きてく気力がもらえマシタ・・・・
やっぱりこの人タダモノじゃないわ。
頭良くて、しつこくなくて暖かい、理想の男性・・・って話がそれましたが、
おすすめです!!