Wonderfully readable
★★★★★
太宰治の「斜陽」の英訳です。現代日本文学の名作をわざわざ英訳で読むことはないのですが、日本の事柄を自然な英語で表現する方法に関心があるので、日本文学の名作の英訳はつとめて目を通すようにしています。冒頭の「朝、食堂でスウプを一さじ吸ってお母さまが、「あ。」と幽かな叫び声をお挙げになった」は、ドナルド・キーンの訳では、Mother uttered a faint cry. She was eating soup in the dining room となっていて、スープはさじを使うときは eat するものだと知りました。
キーンの翻訳は、冒頭の訳でもわかるように、逐語的忠実性にはこだわらずに、原作の場景を平明で自然な英語で表現していますから、英文として非常に読みやすい。日本独特の事物についても、「仙台平の袴を着け、白足袋をはいておられた」は、in slightly less formal attire, but he still wore his white gloves と意訳し、「また白足袋をはいてお見えになり」は、appeared in his formal costume again とあっさり訳しています。よどみなく読める名訳です。