チャイムとの戦い、という本筋は本筋で面白いんだけど、それ以外の細かいところで、なんだかいちいち昨今の情勢に絡めて思い当たってしまいます。戦争では強かったのに情報戦に負け、子々孫々「おまえたちの民族はいかに残酷で悪辣で道徳的に穢れているか」という「自虐教育」を押し付けられて、本気で自分たちの本性が道義的に劣ると思い込み、誇りを失って二級市民と化す民。「我々は平和を望む」と言葉で言っているから、行動も真意もそのとおりだろうと能天気に信じ込む人々。そしてなんと平和のキャンドル・デモまで出てきます。
面白かったです。
リチャードがすっかり忘れていたあの女性はでてくるし、Imperial Orderは意外な方向へ行軍してきているし、呪文(チャイム)の影響で大変なことが起きているし、と今回も目が離せないと言いたいところだが・・・ Temple of the Windの最後で一応一段落したことと、前回頑張りすぎて作者に疲れが出たのだろうか、前回とはうってかわってスローテンポの出だしだった。なんせ、冒頭かなりの長さでリチャードが一羽のニワトリを追いかけ回しているし、それが終わり、やっと面白くなるかと思ったら、次はAnderithの政治的駆け引きを長々と見せられる。日本語訳の一巻目はニワトリを追いかける話で終わってしまうのではないかと、いらない心配までしてしまう。前作から若干ページ数は減って800頁弱だが、速く読み終わって続きに期待したい、と途中までは思った。
ただし、さすがにそれだけでは終わらない。後半からはいつもの手に汗握る展開が戻ってくる。個人的には日本語版のイラストが結構好きだが、速いテンポで出版されているものの翻訳が待ちきれないので、次作もやはり原書で読んでしまうだろう。それにしても、いつになったらImperial Orderとリチャードの直接対決が始まるのだろうか・・・?