人生を映画に捧げました。
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山田宏一による、フランスの映画監督フランソワ・トリュフォー(1932〜1984)の前半生(デビュー作「大人は判ってくれない」を撮るまで)の伝記。トリュフォーの生い立ちを本書を通じて初めて知ったが、驚きである。まず私生児として生まれ、多感な時期に母親が再婚して、両親に邪魔者扱いされる。学校の成績も散々で、14歳で学業を放棄。そして親からも見放され少年院に出たり入ったりを繰り返す。この時点でスイスの大銀行家のボンボンとして何一つ不自由のない少年時代を過ごしたゴダールとは全く対照的である。彼に愛情を注いだ肉親は唯一祖母だけで、彼女の影響で文学と映画には興味を持つようになった。
その後映画評論家のアンドレ・バザンに巡り合いバザンが保護者代わりになってフランソワの面倒をみるが、波乱は続き、軍隊に入って脱走するという騒ぎを起こす。バザンの尽力によりなんとか軍の刑務所から釈放されて、彼の庇護の下に徐々に映画の世界に接近していく。そしてヌーベルバーグの仲間たちに出会い、最初は批評家からキャリアをスタートさせ、ついに監督になる。
トリュフォーの友人でもあった山田氏の暖かい視点から綴られる本書は、この類稀な映画監督のドラマチックな、まさに「映画的人生」を描き切ることに成功している。愛に満ちた心暖まる名著。ヌーベルバーグに興味ある方は必読であろう。