淫にして、妖なれども、卑ならず
★★★★★
本書は、短編連作集の体裁をとるものの、ストーリーに大きな流れは無く
毎話、主人公が一杯の酒に誘われて幽境へ赴き
悦楽・淫蕩のきわみを味わうというシンプルなもの。
あるときは幽玄な桜を眺め
またあるときは、仙界へと赴き
子どもの姿に戻っては、幼い日に亡くなった母親と交わり
女性の姿になって、一休和尚との淫蕩に溺れる。
ややもすれば、ひまなセレブが
快楽の限りを尽くすだけの話になりかねませんが
全編を通底する筆者の美意識は、
本書に神聖さすら漂わせる。
上質なお酒のように、毎日少しずつ飲み
その余韻にいつまでも浸っていたい作品です。
よもつひらさか往還拾遺
★★★★★
倉橋由美子氏は 1995年以来サントリークォータリー誌上に 酔郷譚 の名で短編集を書き続けた.15篇纏まった所で,'よもつひらさか往還' のタイトルで単行本として刊行された(3/2002, 講談社).酔郷譚の方は,依然として連載が継続され,彼女の死の前年 2004年9月刊行の第22篇 '玉中交歓' で途絶えた.この本は,これまで本として出版されることのなかった酔郷譚第16-22の七編を収めたものである.作品の質は勿論変らない.ただ,緑陰酔生夢 や 落陽原に登る のような壮大な話が消え,新しいヒロイン真希さんを加えてより内輪な話が増えた.どうしようもなく色好みの美少年 慧君が主人公なのは言うまでもない.内輪な話と言っても 黒い雨の夜 (9/2003)や最後の作 玉中交歓 のような物凄い話がある.問題は二冊に分れてしまった原酔郷譚をどう頭の中に復元するか,である.とりあえず私は講談社版とこの本を重ねて置き,随時参照している.著者最晩年の性と死への絶え間ない問いかけに圧倒される思いがする.
素晴らしくかつ残念
★★★★★
著者の没後3年目にして最後の新刊を読めるのは素直に喜ばしい。
と同時に恐らくはこれが最後の新刊となることは誠に残念である。
初期作品の生硬さも魅力的ではあったが
私的には80年代以降のよく熟れた文体は読むのが楽しみであった。
この人の文章を読むと澁澤龍彦の晩年の小説の文体が思い浮かんでくるのは
私だけなのだろうか?
倉橋由美子が究めた最後の小説
★★★★★
2005年に急逝した倉橋由美子の待望の新刊!
そしてこれが、本当に最後の新刊=遺作です。
最後の新刊だと思うと哀しいですが、日本文学史に名を留めるべき彼女の数々の傑作がほとんど絶版状態の寂しい現状からすると、
刊行されただけでもラッキーだとも言えるでしょうか。
小説の単行本としては6年ぶりのものとなります。
妖しいバーテンダー九鬼さんと、慧君(きっと美青年!)が中心のカクテル・ストーリー。
一編一編が濃度が高く、上質な小説を読むことの快楽に読者を酔わせてくれます。
一見ただ優美で官能的でありながらも、しっかりと鉱物のように硬質で、気品あふれる完成度の高さ!
そこに匂い立つ、暗く密やかな甘い毒のようなエロスは、なんといっても倉橋作品の隠し味でしょう。
それはまるで九鬼さんの作るカクテルのよう。
この唯一無二の世界観を、新作でもう一度読むことができて、本当にうれしいです。
読み終わった後改めて、彼女の不在が心にしみました。
森茉莉、金井美恵子、松浦理英子、川上弘美、小川洋子、桜庭一樹といった作家が好きな方は、まず倉橋由美子を読むべきでしょう。
美しい装幀も含めて、ファンは必ず持つべき1冊。また、短編集なのでまだ倉橋作品を未読の方にもおすすめできます。