演習本と見せかけて…
★★★★☆
執筆者は全て実務家。一応演習書の形式を採っており、問題と解説がセットになっている。内容的には、はしがきで「『教科書などには一通りのことしか書いてない』実務上重要な問題について、実務的観点から突き込んだ検討がなされている」と書かれているように、一般の教科書レベルの知識を前提にして、それが実務での具体的場面でどう適用されるのかを検討している。
例えば、証拠調べに関する異議について、田宮先生の教科書では「申立ては個々の場合ごとに、直ちに行い、これに対して裁判所も遅滞なく決定でこたえる(規205条の2・3)」と説明されている。では、どの時点までに異議の申し立てを行えば、「直ちに」の要件を満たすのか。相手方が発言した直後に申し立てなければならないのか、主尋問終了後、反対尋問前でも良いのか?主尋問で誘導尋問がなされた場合と主尋問における証言の一部に伝聞証言があった場合とで違いはあるのか?といった感じである。
前提となる基本的知識に関しても、解説の中で教科書並みかそれ以上に詳しく説明されているので、学部生やロースクール生が読んでも難しくて理解できない、ということはない。しかし、上記のようにその内容は極めて実務的なので、あえて今の時期に通読する必要はないだろう。調べものをするときに参照する程度でよいと思われる。結構、レポート課題の答えがそのまま載っていたりするのでなかなか便利である。
逆に司法修習生にとっては必読の書と言われている。二回試験のネタ本になっているらしいが、法改正により立法的に解決された問題や、どうみても裁判官の人しか対象にしていない説例もあったりするので、やはり全部通読する必要は無いかもしれない。
弾劾主義vs糾問主義、当事者主義vs職権主義
★★★★★
これも、旧著を松尾先生らがアップツーデートにしたものであるが、基本的なスタンスは、「法律学全集」の刑事訴訟法から少しもブレがない。
「二つのモデル論」から出発して、二つの典型的な訴訟構造論を対比させた上で、その功罪を論ずるという姿勢は、分かりやすく、理論的統一性が取れている。
この書は、おそらく、受験マニュアル本などでは永久に理解できない、刑事訴訟法の基礎を会得させてくれる。基礎ができているということは、どんな応用問題にも対応できるということだろう。
実務家になってから、新たに購入して新しい部分を自分なりに補充したが、(口幅ったいが)若い頃に徹底して叩き込んだ基礎があるので、すぐさま順応できた。
こういう点は、受験生の参考にもなろう。
(36期司法修習生)(弁護士)