特異でエキサイティングな現象学入門書
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本書は、平易な語り口によって、現象学的な「経験」を著者とともに体験できるように書かれており、いろいろなことを考えさせる、深い入門書である。また、時にその現象学解釈は異端視されることもあるとはいえ、今日の日本を代表する国際的な現象学者としての著者の仕事のエッセンスは、ほぼ本書に詰まっている。
哲学一般に言えることだが、とりわけ現象学は単なる知識ではない。それはある特殊な「経験」である。自らそれを経験してみないことには、面白さや重要性はまったくわからないような、ある特別な「経験」を行う学問なのだ。本書はたんなる現象学の説明ではなくて、まさにその経験を味わえるように書かれている。筆者とともに事柄を分析することにより、フッサール現象学のもつ面白さと深さを理解できるようになっている。
といっても本書は、例えばレスター・エンブリーの「使える現象学」などのような、お手軽な「なんちゃって現象学」とは性質を異にする。また哲学史的でありきたりなフッサール解説を期待しても裏切られるかもしれない。本書で中心的に扱われるのは、他の入門書では「後期フッサール」の変てこな発想としてしばしば異端視される「受動的綜合」と呼ばれるアイディアであり、著者はこれを現象学の核心としてスポットライトを当てるのだ。この思想は、特にフランス現代思想などを読むための基礎知識となる理解の地平を与えてくれる。
本書は現象学的な経験に読者を導いてくれるとともに、フッサールの深い理解を与えてくれる、稀有の現象学入門書であり、格好の哲学入門書であると思う。また、現象学の知識をある程度もっている読者に対しても、十分に勉強の意味がある優れた解説書であると言えよう。
日常を題材に現象学とは何であると説明する
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本書は現象学の入門書である。前提知識を必要としない。日常を題材にして、現象学とは何で
あるか丁寧に説明してくれる。
現象学を理解するには、受動的綜合の理解抜きにはありえないという。日本の解説書には
それを詳しく説明するものはなかったようだ。本書においては、それが理解できるような
配慮がなされている。
私は本書は何度か読んだが、自分の頭の悪さのためか、理解できたとはいえない。しかし、
そのような私であっても、本書を何度も読ませてくれるのは、氏の親切な配慮のおげである
と思う。現象学は全くわからないという人であっても、本書にチャレンジしてみるのもよい
もしれません。
確固たる(括弧)を。
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哲学とは括弧に入れることだ。
何気なく過ぎていく日常をエポケー(判断停止)し、そこから順番に現実を暴いていくという手順で話は進みます。
机上の話ではなく、日常の話です。だから日常を過ごす人間なら誰でも読めるし、わかる。
この本を読むことによって、過ごす→生きる へ変化できればいいな。
予備知識なしで読める「ですます調」は、著者によく似合っています。
プロパー研究者による近年待望の「現象学の入門書」
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哲学の素人にとって、出来のよい入門書に出会う機会はそう多くありません。ここ数年、現象学においては殊にそうでした。本書と他の一部を除いて、専門的な話題と入門的な話題の双方をつなぐような「これ一冊」の解説書の出版は近年ではほとんど試みられて来なかったとすら見えます。本書、『現象学ことはじめ』はフッサールの「受動的構成」という豊かな論件に光を当てつつ、現象学が文字通りに日常を哲学する道であることを教える優れた労作。デリダ、ハイデガー、レヴィナス、メルロ=ポンティなどの現象学、そしてフッサールの自身の仕事に親しむ前に、ぜひ読んでおきたい一冊。わかった気にさせただけで終わらない理想の入門書です。お勧めします。