藤原和博さんは、私が尊敬して止まないビジネス・パーソンのお一人です。

東京都の公立中学校で初となる民間校長をなされ、数多くの新たな試みを実現し、和田中の名前を全国に知らしめた希有な方です。

私は、過去、二度、藤原さんにお会いする機会がありました。
１回目は前職で事業会社の取締役経営企画室長をやっていた時。当時、私の主導でこの会社の人事戦略を見直す動きがあり、そのための貴重なご意見を伺いたいという私の希望を、同社の社長が了解してくれ、直接連絡を取って、社にご足労願ったという形でした。当時、私は、リクルートという会社にとても惹かれていて、リクルート関連の書籍を漁るように読んでいました。その中で一番印象に残ったのが、「人生の教科書」や「リクルートという奇跡」などの藤原本で、お会いする前から藤原さんの大ファンでした。ですから、直接お話しを聞けるという機会を得たことはとても嬉しかった記憶があります。会社でちょっとだけ話をさせてもらい、その後近くのおでん屋さんで飲みながら「暑い」話を聞かせていただきました。
その飲み会で、学校に見学においでと誘っていただき、某小学校の「よのなか科」の授業を見学に行きました。それが二度目です。この授業は衝撃的でしたし、授業後の校長室での見学者の皆さんとの会話も忘れることができません。やっぱり、この人は凄いと、改めて感じました。

リクルートという奇跡 (文春文庫)


人生の教科書「人間関係」 (ちくま文庫)


その後、間を置かず、和田中の校長職に就いたというニュースを知って、ますますご活躍されるのだろうなと思いました。私の予想通り、藤原さんは、様々な新しい試みを公立中学校に導入していき、その一挙手一投足がメディアの注目を集めることとなり、和田中は全国区の有名中学校になりました。夜スペ、ドテラ、学ボラなどの奇抜なチャレンジは多くの人が知っていると思います。民間出身ならではの意思決定のスピードと行動力が発揮された結果産まれた施策です。

本書は、そんな和田中の改革を、実際の現場で接してきた教員や副校長、学ボラの方などから、音楽のゲスト・ティーチャーである深田悦之氏がインタビューしてまとめられた一冊です。本書を読めば、藤原改革の舞台裏がわかります。決して順風満帆だったわけではなく、それでも「子ども達のために」というただ一つの思いだけで藤原さんや教員の皆さんが必死で進んできた道筋なのだと。

藤原さんは今は和田中校長を次の代田さん（この方もリクルート出身）に引継ぎ、現在は大学教授の傍ら、大阪府知事特別顧問をされています。藤原さんの貴重な経験と類い希なる実力が大阪府にとって大きな力になるだろうなと思っています。

教育というジャンルに限らず、ビジネスにおいても、人間関係においても、藤原改革の根幹にあるコミュニケーション力と行動力とは、とても参考になります。そして、子を持つ親としても、現在の中学校の抱える問題とそれを克服すべく動いてきた藤原改革の実態を知ることは、有益であると思います。多くの方に読んでいただきたい一冊です。