線型代数の入門書としては程度は高い、少々広範囲を扱った概論書
★★★☆☆
連立線型方程式の解を求めるという具体的な問題を提示して行列式を導入するところから本書は始まる。行列は線型空間における線型作用素の表現として現われる。線型空間は抽象的に定義し、幾何学的ベクトル空間で準備をすることはない。これらだけからも通常の入門書とは違っていることが分るだろう。序文によれば数学科と物理学科の学部生向けということだが、後者には程度が高かろう。各章で扱う項目は少なめで、深く議論するより、ずんずん先へ進もう、といった印象を受ける。記法や文字の選び方も他書とは異っている。記法は少々乱用ぎみで、のちに部分的に再読するときに混乱するかも知れない。説明は簡潔で通読するのにそう苦労はしないだろう。