これは…今まで読んだ憲法本では一番面白い…
★★★★★
個人的には今まで読んだ憲法本の中で最もスリリングで理知的でバランスをとり唸らされ考えさせられ、そして得るもののある有意義な本であった。憲法学者の権威と保守主義を表明している政治学者の対談だがまず共通点として、両者とも単純な立場ではない。長谷川氏、杉田氏ともに絶対の護憲派でもないが、絶対の改憲派でもなくむしろ多くの安易な改憲論には批判的な方である。だが自分では「自分は護憲派ではなくあくまで立憲派です、安易な改憲に反対なだけです」などと言う(伊藤真氏のような)人も実質的な主張は極端な絶対平和主義で説得力がなかったりする。だがこの二人はそれでもない。長谷川氏は現行憲法でも武力は行使できるし(そう解釈すべきであり)そもそも立憲主義と絶対平和主義は両立しえないとまで言っている。杉田氏も絶対平和主義には微塵もコミットしておらず、むしろ9条に猛攻を浴びせている。
日本国民全員が無抵抗で殺されてでも9条を守れという絶対平和主義について長谷川氏はそもそもそんな理念を全国民に押し付けようという点に無理があると一蹴にするがこれはもっと言われていい。それは右からだけでなく中道からも、いや左からももっと言われていい当たり前の事なのだ。私もこのような巨大な理想ないし信仰の強要は自由主義にも人権にも合致しえないと言い続けてきた。そういうありえない事を言っているのが多くの護憲派であってみれば何がどう転んでもこれに限れば右に分がある。いやそもそも絶対平和主義を採用しない事が右翼的という妙な基準自体を廃棄すべきだろう。長谷川氏は一貫してリベラルな立場を維持しているが、その立場から堂々とこの当たり前の事が言われた事は大きい。
このような長谷川氏にも好感を持つが、杉田氏も負けていない。というより、基本的に本書は杉田氏が長谷川氏を質問攻めにしてそれに憲法学者として答えていく、さらに杉田氏がその回答に鋭い突っ込みを入れるという流れで進んでいくため、杉田氏が本書を動かしていると言っても過言ではない。その批判力、重要な論点、有意義な論点を次々と引き出し、偶に逃げようとする長谷川氏を決して逃さず、浅さのない踏み込んだ議論を形成していく力には感服の一言である。こんなに話を引き出すのが上手いなら是非もっと色々な人と対談して欲しいとも思った。(余談だが最近日本にも本当の保守政党が必要だという話題で宮台氏と対談したようなので後に刊行されるかもしれない)
論点は他にも多岐に渡るがこれがどこまでも本質的で深い。絶対にこれを考える事は有用だというある種の普遍性すらもった論点が、高度な二人の妥協なき対談、というよりもはやこれは礼儀をわきまえた「議論」の域だと思うが、それによってスリリングに掘り下げられていくのである。改憲派も護憲派も必読かと思うが、当然に強く学問的、高度に知的であり、政治学や哲学の用語も飛び交うため基礎的な教養は若干必要かもしれない。
コトバに拘泥しない本質的な解釈とは
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憲法学者である長谷川氏の自説に対して政治学者の杉田氏がツッコミを入れ、それに長谷川氏が反論するという形を取っており、長谷川憲法学を立体的に理解できるようになっている異色の憲法本。
長谷川憲法学の特徴は、なんといっても文言解釈に拘らない点。憲法の「コトバ」よりも憲法が何を守れるか、いかに機能しえるかという観点からダイナミックな解釈を展開しています。
また、杉田氏のツッコミも鋭く長谷川氏がうろたえる場面も見受けられますが、何とか答えようとする姿に自説の自信も感じられます。
現代人必読!家庭に一冊常備薬
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「憲法と平和を問いなおす」の長谷部教授と「デモクラシーの論じ方」の杉田教授という、「花形」が憲法改憲について、また、立憲主義、民主主義、憲法9条、等など、主に長谷部理論に対する杉田教授からの挑みかけという論調で進んでいきます。討論なので、当然話し言葉で一見分かりやすいですが、その射程距離は非常に奥が深いです。最近の改憲や憲法論議の8割はイデオロギー化しており、単なる価値観のぶつけ合いになっていますが、それに比して(比べるのが、長谷部、杉田両教授にとって余りに失礼であり、訳分からん本や評論家を気取る馬鹿げたマンガ本が多すぎますが、更にバカらしいことに、何やら影響を受けている若者がいるとか、世も末です)、非常に知的で生産的な議論が為されています。全くの初学者は、確かに難しいところもあるのが難ですので、出来れば分かりやすい予備校講師の書いた憲法の解説書など読んでから、「憲法と平和を問いなおす」や「デモクラシーの論じ方」など読み、そうしてからこの本を読むと、目からうろこが何度も落ちます。憲法について、さすが憲法学会のエース長谷部教授が、冷静に豊富な奥深い洞察から、杉田教授の攻撃に対して、ばさばさ捌いていきます。まさに必見です。
最近テレビなどで大した法案も出せない不勉強な国会議員、感情的な論調のジャーナリスト、評論化然のタレント学者やアホタレント弁護士、アホタレントなどが、簡単に憲法改正について情緒的な議論を交わしていますが、頭が痛くなるほどの底の浅い感情的な議論で、危険です。判断力の無い子どもやゆとり教育化した大学生がまともにしますし、見たとたん頭が悪くなります。そういう訳の分からない愚民化憲法論議をテレビで見るくらいなら、是非ともこの素晴らしい討論を、国民一人ひとりが読んで、冷静に判断して欲しい本です。非常に緻密で奥深い論争なので、読んだだけで賢くなったかのような錯覚に陥るくらい素晴らしい本です。是非ご自身で読むだけでなく、ご友人にもお勧めして、議論の叩き台にして欲しい本です。一家に一冊の本であり、常備薬としての本です。
『これが「長谷部」憲法だ!』
★★★★☆
今、話題のクールな「長谷部憲法学」の入門書。憲法についての本としては、コンパクトで通勤電車の中でも軽く読め、また、読んでおもしろく、かつ、ためになるという珍しい本。対談形式のため難しい議論でも割と判りやすくなっています。
某新聞の読書欄の本書の書評で、川出良枝さんの「長谷部憲法学の論理は緻密かつ堅固で、安易な反論を許すものではない」という些か挑発的な記述があったのが気になっていて、この小さな本を購入しましたが、対談の相方である杉田さんのあの調子からしても、本当にそうだと思います。
おもしろいと思った箇所としては「解釈は『芸』であり、条文の字面通り読んで話が済むくらいなら憲法学者のような専門家などいらない」というくだりで、全く同感。専門家には上手な解釈芸を望みたいものです。
そうかなあ、と思う箇所としては「憲法改正など、労多くして益少ないのだから止めたほうが良い」というくだりですが、確かに労は多いでしょう。でも、国民投票法が成立した今となっては、主権者として、この際、山室信一さんが某新聞紙上で言われるように「私擬憲法」、私ならこういう条文が欲しい、というものを起草してみるという提案の方が前向きな態度として重要ではないでしょうか。
唐突でよく分からなかった箇所としては、冒頭、立憲主義を「価値観、世界観の多元性を前提にした上で、その間の公平な共存をはかるための手立て」と定義されているくだりで、この定義だとLiberalismに近い感じを受けます。語(Constitutionalism)の訳語である「立憲主義」という日本語から、やや離れているのではないでしょうか。
憲法がわかりやすくなる本
★★★★☆
長谷部教授が、杉田教授との対談の中で、「憲法がどのような理念でできているのか」、「国家と戦争の関係」、「第9条の必要性」、「憲法という法の性質」といったことを、わかりやすく説いていく本。
憲法は時に問題が抽象的にわかりにくい場合もありますが、この本を読むことによって、憲法のイメージがはっきりしてくると思います。これも対談方式にしたことの効果だと思います。