再発見に感謝
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マラマッドさんの作品は30年くらい前に『アシスタント』を読んだだけ。柴田さんの編集・新訳ということでおそるおそる読んだのですが、これが面白い。動物や天使と人間が交差するシュールな「ユダヤ鳥」「喋る馬」「天使レヴィーン」。さわやかな読後感の青春小説「夏の読書」、貧しさを描きながら暗い話に終わらない「最初の七年」「悼む人たち」「白痴が先」など、こんなに面白い作家を放っていたんだと思わせられるほど、みずみずしくまるで同時代の作品のように読めました。このシリーズ「柴田元幸翻訳叢書」(ジャック・ロンドンさんのもよかった)に今後も期待です。
本当に哀しくて可笑しかった
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岩波の20世紀アメリカ短編選で『ユダヤ鳥』を読み、興味を感じていたところ、この本が出ました。翻訳の入手が困難な折、傑作集が丁度出版されて幸運でした。どの作品もわずか数人の登場人物しか出てこないシンプルな舞台設定で、しかも皆さん孤独なユダヤ系アメリカ人。どれも似たような暗い話なのに、なんでこんなに面白いんでしょうか。このシンプルさは、日本の落語に似てると思いました。無駄をなくして『孤独』というテーマに徹底的にフォーカスしていると思います。お気に入りは、喋れない人間と喋る馬が漫才をやる『喋る馬』、ひきこもりの青年と社会の接触を描いた『夏の読書』、貧困のため知的障害を持つ息子を親戚に預けねばならない父親の話『白痴が先』。『白痴が先』は、父親と息子が分かれる日、息子の汽車賃を得るために質屋やラビを駆け回る姿を描き、わずか15ページあまりの短編なのにとても奥行きを感じさせます。凄いと思いました。
名訳
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以前にジャック・ロンドン「火を熾す」で瞬く間に三刷りとなり話題となった柴田元幸翻訳叢書、待望の第二弾。
研究社「マラマッド短篇集」にも収録されている「ユダヤ鳥」。これは明らかに本書の訳文の方が優れている。ディテールは長くなるし、なにより衝撃の度合いが薄れてしまうのではしょることにする。
昨年話題となった小学館文庫刊「20世紀の幽霊たち」の著者であるジョー・ヒル(スティーヴン・キングの実の息子)も推しているだけあって、マラマッドの貴重な短篇集。全集は刊行されているけれど、価格は「フォア!」と叫んでしまいそうなくらい高い(約10万円)。しかし本書は柴田元幸が選んだ極めつけの品(及び訳文)を極めて低価格で読める。素晴らしいことだ。
これをきっかけとして、光文社古典新訳文庫などからバーナード・マラマッド短篇集を出してほしいと思う。
柴田元幸も絶賛する長篇「アシスタント」も新訳化して訳出してほしい。多少は高くても良いので、できれば柴田元幸の素晴らしい翻訳で。