御家人勝小吉。若くして撃剣を好み、その奥技に達するも、お役入りかなわず、赤貧洗うが如き生活。無学ながら、人となりおおらか、身を持するに倹朴。強きを挫き、弱きを助け、人助けのため東奔西走。この間、嫡子麟太郎は、剣の修行のかたわら、蘭学を学びます。

本書に登場するごろつき剣術遣い小林隼太、小野兼吉、信用師中村多仲、斎藤監物、大川丈助らは、小吉が晩年に書き残した懺悔録「夢酔独言」に出てきますから純然たる創作ではない。これらのキャラクターを作者がたくみに脚色したものです。父と子、夫と妻、隣近所の人々との心温まる交流を描いた本書は、読後感さわやかなピカレスク小説です。