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殉死 (文春文庫)

価格: ¥520
カテゴリ: 文庫
ブランド: 文藝春秋
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「聖将」か?「愚将」か? ★★★☆☆
本著は司馬遼太郎が乃木希典を描いたエッセイ風の小説である。
乃木希典といえば、日露戦争における旅順攻略戦で勝利し有名な「水師営の会見」を行った司令官で、
明治天皇崩に合わせて切腹により殉死した明治期の英雄だ。
しかし、、以前読んだ『坂の上の雲』で、司馬遼太郎が描く乃木将軍のそのあまりの愚将ぶりに驚かされた覚えがある。
本著はその『坂の上の雲』よりも前に発表された作品で、乃木将軍の生涯についてより深く、より批判的に描かれている。
乃木希典に対する歴史家の評価は「聖将」「愚将」と両極端で、現在でも定まっていないらしいが、司馬史観で見る限り乃木希典は希代の愚将ということになる。
そしてその愚将を明治天皇、昭和天皇は生涯愛したという。
多重人格とも思える複雑に入り組んだ乃木希典という生涯に、歴史の面白さを改めて感じる。
明治の精神に殉じた乃木大将 ★★★★☆
 『坂の上の雲』読了後、この本を読みました。第一部は『坂の上の雲』に書かれている旅順攻略の部分とほぼ同じでした。圧巻は第二部。これだけでも充分一読に値します。
 
 明治帝に仕える忠良な家来として、乃木大将のことが書かれています。乃木自身が陽明学派の系譜の末端として、その主原理である「知行合一」を殉死を持って最期まで貫き通した姿は正に武士でしょう。
 明治帝が崩御され大葬を控えた二日前(乃木殉死の二日前でもあるが)、当時の皇太子裕仁親王に乃木が座右の書としている『中朝事実』を涙ながらに説明するくだりは心に残りました。

 乃木が作法にのっとった十文字腹をおこない、介錯人がいないため軍刀で咽喉をつらぬき絶命したのは武士の最期として見事でしょう。

(最後の部分から抜粋)
この日本の貴族の演じた中世的な死の様式におどろきつつも、そのほとんどが激しく賞賛した。(中略)その典雅で剛健な秩序を愛惜するものはこの希典の死を世界史的な感覚でとらえ、奇跡の現象として感動した。かれの思想の過去の系譜の中にあるひとびとが、すべてその行動よりもその劇的な死によってその同時代や後世に思想的衝撃を与えたようにかれの死もその劇的な時宜を得た。
夫人の最期 ★★★★★
坂の上の雲で乃木希典という人間に興味をもって、本書を読んだ。一言で言えば、坂の上の雲よりも重い感銘が残る。文体はおよそ司馬らしくない乾いたタッチで、特に後半の「腹を切るということ」に至っては高品質のドキュメンタリーを読んでいるような凄まじい迫力、これは小説にせずに論考のままで書き進めたのは司馬の英断であったが、歴史家としての司馬の力量というものをまざまざと見せつけられる一作となっている。司馬が乃木希典の軍事的才能を断罪したことは良く知られており、それはおそらく事実であろうが、司馬は日露戦争後の乃木希典の生き様には、人智を超えた、近付き難い一種の恐れに近い気持ちを抱いていたのではないかという印象さえ受ける。
特に衝撃を受けるのは最後の最後、静子夫人が15分前になって自分の死を意識するくだりである。夫人が乃木の部屋に入ってからの出来事は司馬の推量であり、自分の死を意識したのが本当に死の直前なのか明治帝の大葬の日の朝なのかは不明であるが、直前の夫人の言動が事実であれば、やはり司馬の推量通り、夫の部屋に入ってからということなのだろうか。謎を含んだ最期である。
精神の気高さ ★★★★★
乃木の軍事能力に対しての作者の評価は手厳しいもので書いている途中から半ば呆れているのではないかと思われるほどで、
この点に関しては乃木や他の軍事関連の本も読んだ上で判断した方が良さそうなものの、
乃木の精神性に対する理解と分析は秀逸であり、ややもすると一種狂信的ともいえる独自の規範を持つ乃木が
なぜ明治天皇や児玉源太郎といった周囲の人間にとどまらず、一般庶民にも愛され続けていたか良く分かる作品だと思います。
人間の生き方について100年前の日本人から学ぶこと ★★★★★
 本著を読む前は「坂の上の雲」の余話を短くまとめたこぼれ話的な作品という印象を抱いていたが、読後はこぼれ話どころか、「坂の上の雲」に匹敵するインパクトの強い作品ということに気がついた。特に「腹を切るということ」は日露戦争後の平和な時代のストーリーということで、つまらない話という先入観を持っていたがが、何万人もの日本の陸軍兵を無駄死にさせ、戦死した兵や家族への申し訳ない想いを抱きながら生き続ける姿は悲愴で、東郷の華々しい戦後の生き方とは対照的な姿が痛々しい。明治天皇への恩に報いるために、昭和天皇の教育に没頭し、昭和天皇の高潔な人格の形成に大きな影響を与えたことを考えれば、昭和時代の繁栄に少なからず貢献した功績を評価してもいいのではないかと思う。乃木を愚将と評価する人はぜひの作品を読んでから評価してほしい。「坂の上の雲」や「殉死」に登場する100年前の日本人から学ぶことは多く、現代社会を生き抜くための心がまえや指標を与えてくれる作品だと思う。自信を失った人や失敗をした人、絶望を感じている人には特に得るものが多いと思う。「坂の上の雲」のドラマ化を機会に本作品のドラマ化を同じキャストで期待したい。