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新装版 歳月(上) (講談社文庫)

価格: ¥750
カテゴリ: 文庫
ブランド: 講談社
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癖のある人間でも成功できるもんだな ★★★★★
江藤新平というかなり癖のある男の話
客観的に見ると、ばかだなぁとおもうけど、でも、実際自分が
この世界に入り、彼と同じものを見るとこうなってしまうんだろうなぁと思う。

そういう意味では、人間やはり、地面にはいつくばって
目の前の現実に縛られて生きているんだなぁと思い知らされる。

あまり感情移入しやすいタイプの主人公ではないが
一人の男として、こういうやつもかっこいいなぁとおもえる。
自分の周りにいた、ただむかつくだけのやつも認められるようになる

そんな本だった
近代国家草創期の俊英 ★★★★★
 世に西郷隆盛、大久保利通を評価する声は多く、よほどのことがない限り彼らの名を知らぬ人はあるまい。しかし、彼らとともに明治政府の足がかりを築いた「江藤新平」を評価する声はいかにも弱い。幕末維新史に関心を示す者ならいざ知らず、一般の人間に江藤の名を問うても、存じないか聞いたことがあるという程度の反応。佐賀の乱の首謀者だった人、と言ってもらえれば御の字といったありさまである。
 本書はその「江藤新平」を描いた小説である。
 司法権の独立を言い、人権定立を主張し、日本はよろしく法治国家たるべきであると説く。当時の太政官にこれほどまでにたくましい国家構想を持った政治家はなく、まさに「稀代の」と呼ぶにふさわしい人物であった。
 だが彼はその構想を完成させることなく、政敵大久保利通に破れ、乱に巻き込まれ、そして無惨にも刑死した。司馬氏はこの小説の中で江藤のそういう惨めな死を深く考察し、観察し、透明な視点で彼を描き上げている。「江藤新平」の人となりがありありと伝わって来、もちろん物語としても面白いが、歴史に興味を持って考えるきっかけにも充分なりうる名著である。
 非業の死を遂げた歴史上の人物は数あれど、どんなにか「あそこで死んでいなければ…」「あとこの点が彼に備わっていれば…」と強く思わせる人物は多くはない。読了後の感想は人それぞれと思うが、おそらくはそうした期待を込めた、でもかなわぬというやるせない思いを感じさせる人物だと言える。
 江藤を扱った本はいくつかあるが、純粋におすすめできる第一の書はこれ以外にない。司馬氏と明治に関心があるのなら、『翔ぶが如く』の前にこの『歳月』の一読をおすすめする。
国策裁判 ★★★★☆
おそらくこれが維新後初の国策捜査の国策裁判の国策死刑か。
三権分立って、中学の教科書に書いてあってさも当然に守られているようですが、どれだけ守ることが難しいものなのかは、それが当然でないことの方がほとんどであることを思い致せばすぐわかる。

国策捜査があると周知に至った今こそ読まれる書物かもしれません。
今も昔も行政強すぎ。
司馬作品 ★★★★★
…ほとんどに云える事ですが、血沸き肉踊ります。

作品としてはレヴューの数が物語るように、地味なのかも知れません。
主人公がこの国の司法制度を築いた最初の官僚(…と云っても言い過ぎではないでしょう)の話ですから。

ですが、あなどるなかれ!
かつてはこの国の官僚もこれ程までに『男』であったか!と感動できます。
己の仕事に己の信念を貫き、それが己の地位保身の為ではないが故に斃れて行く。

これは史実を元にしたフィクション(小説)である、と判ってはいてもやはり感動します。
江藤の姿をこの小説で思い描いた後、現代の政治家や官僚を眺めると…なんともトホホとなります。
私利私欲のない、純粋な急進改革派・江藤新平卿を知って欲しい。 ★★★★★
 今年度の夏の甲子園大会、全国高等学校野球選手権大会で見事優勝した「佐
賀県」出身の江藤新平卿の話です。好きだなあ、こういう不器用な人。

 幕末は、わずかな志士活動だけで脱藩の罪となり、長い間、囚われの身とな
り、暗い世界で過す罪人から、明治維新で世の中が一変し、解き放たれ、明治
政府に出仕するや、眩いばかりの明るい世界に出て、今までの失われた時、「
歳月」を取り戻すかのように、昼夜、馬車馬のように働く司法卿・江藤新平卿

 「さ、裁判長! 私は..。」
 人一倍、社会正義に燃え、人権を重んじ、人一倍弁論がたつにもかかわらず
、自分自身の事には一言の弁明も許されずに、佐賀の乱の首謀者として、官史
に強引に処刑台に引っ立てられて行く新平卿。
 自分自身の作った裁判所制度の公正さを信じ、静粛に裁判に望むのだが、
裁判長が政敵・大久保利通に買収されいることも知らず、こういう形で大久保
がねじ曲げた不正な裁判・判決にも従っていかざるを得ない新平卿。そういう
ラストにつながる、うかつさも、新平卿の人間らしい所なのです。人権を重ん
じる憲法が無かった時代のお話です。

 彼は頭が、良すぎるのです。学問の素質があり、明晰な頭脳があるからこそ
、周りがバカに見える。時代を先取りした「人権」を重んじた先進性がある。
「万民平等」の感覚があるからこそ、礼儀作法を身に着ける必要性も感じなか
った。その礼儀知らずさが、周りの感情を悪化させて、敵を作ってしまうので
す。
 純粋で、自己の思想に忠実な人。決して、私利私欲の人ではない。
「万民平等」の思想があるから、薩長の独占政権も許せないし、薩長の汚職事
件も「法の下の平等」の理念のもと、薩長だからという理由で、ねじ曲げて
特別扱いすることはしない。ある意味、職務に忠実な、融通性のない、頑固な人。

 参議の閣議で議論するにしても、思想に忠実なため、相手がどなた様であろう
とも、本人は維新第四等の佐賀勢では強く言える立場ではないが、自分の立場を
顧みず、遠慮無く、理屈で、相手をやりこめようとする。
 そのことがまた、周りの感情を悪化させて、薩長を分断し、内部から破壊す
る反逆者のように思われる、誤解される大もとのもと。
 薩摩だ、長州だという藩閥意識、枠、利害を超えたもっと広い概念の「国民」
全体の福祉を考えた人。

 また、自分自身の弁に自信があるからこそ、彼は自分が正論を吐けば、人を
説得でき、人が動くと思っている。佐賀が暴発しそうだと聞けば、自分の弁で
説得・鎮圧できると彼は思う。そう思って佐賀に向かう。
 結果は大久保の権謀に落ちて、乱の首謀者に祭り上げられてしまう。
 反乱軍が負けそうになると、今度は軍を抜け出して彼は薩摩の西郷に、土佐
の連中に協力を仰ぎに、説得するために会いに行く。そういう、うかつさも、
これまた、新平卿の人間らしい所なのです。
 そういう人間らしさを司馬さんは、愛するまなざしで見つめているのです。